音楽の編み物

シューチョのブログ

S59・10・30 宇野功芳 幻のコンサート


f:id:sxucxo:20200815192828j:image

f:id:sxucxo:20200815192824j:image

 

======

やや硬質ではあるが、石橋メモリアルは響の美しいホールである。そして、その美しさは、皮肉なことに、客席に人がいないとき、天国的なまでの透明度に達する。「いっそ、お客を入れないでリサイタルをやろうか」「文字通り“幻のコンサート”になりますね」第5回の宇野功芳・合唱指揮リサイタルの際、私は宇野さんとそんな会話を交した。

[……]

生演奏の、あのかけがえのない緊張感を維持しながら、最高の条件下でもう一度録音してみたい。より良い音を求めるオーディオ技術者達の執念が実を結んで、晩秋の1日、このコンサートは行われた。壇上、宇野さんはタキシード、合唱団は正装、600人以上入るホールの隅に、入場を切望したファンが数十名。アコースティックの美しさを守るべく、ギリギリの客席人数である。演奏はやり直しなし、一度限り。

[……]

===プロデューサー・中野雄氏「ひとこと」から===

 

中田喜直高田三郎などの合唱作品がこれほどまでに感動的な音楽であったとは。寒さ、冷たさ、暗さの中に人の心の火が熱く燃えゆく「雪の日に」。「小さい秋みつけた」が一大叙事詩に聴こえる。滝廉太郎の「花」が、こんなにアーティキュレイティドな節回しや思いきった漸強弱とアゴーギクを伴って歌われるとは。澄みわたる女声が、それでいて振れ幅大きく揺れながら、あらゆる情景情感を繊細に豊かに表現してゆく。綺麗というのとは対極の、真の美。加えて、伴奏のピアノが、協奏曲のオーケストラが単なる伴奏でないのと同等に、またはそれ以上に雄弁に語ってくる。小品集の小宇宙。