音楽の編み物

シューチョのブログ

ハードカバーと白熱電球

阿満利麿『柳宗悦 美の菩薩』

阿満利麿『柳宗悦 美の菩薩』 (2019年、ちくま学芸文庫)──同名書(1987年、リブロポート)の文庫化── 『法然の衝撃』『親鸞・普遍への道』『日本人はなぜ無宗教なのか』等、著者の宗教論・仏教論にはいつもぐっと引き込まれ、熱い読書体験となったものです…

物理の本

ときおり、物理の本を無性に読みたくなります。 理工系の学部生向け教科書程度のものを選んで…といっても、通読できたものもあれば、拾い読みしただけのもの、初めの方で止まっているもの、などいろいろですし、読んでは忘れまた読んでは忘れ…という、一つの…

岡本久『最大最小の物語』

岡本久『最大最小の物語 関数を通して自然の原理を理解する』(サイエンス社、2019年) 連続的な最大最小問題は微積分学と密接に結びついている.[……]最大最小問題は自然の原理を理解するために不可欠であるし,過去の多くの数学者が心血を注いで解決しよ…

ジョセフ・ラズ『価値があるとはどのようなことか』

ジョセフ・ラズ/森村進 奥野久美恵 訳『価値があるとはどのようなことか』(ちくま学芸文庫、2022年) 私が思うに、価値の普遍性テーゼと価値と理由との結び付きとが、それ自体として、実践的合理性において最大化を志向する態度、つまり〈すべてを考慮に入…

小平邦彦『怠け数学者の記』

小平邦彦『怠け数学者の記』(岩波現代文庫、2000年) 去年、『数の発明』という本が出ました。『ピダハン』の著者ダニエル・エヴェレットを父に持つケイレブ・エヴェレットの著作だとか。図書館で一度借りたもののほぼ未読のまま返却(頭掻)、そのため内容…

柳宗悦『工藝の道』(やなぎむねよし、講談社学術文庫、2005年)

2009年から数年に渡って、何冊もの文庫本に収められた柳宗悦の幾多の著述に触れてから、柳の文章に自分の内面の思考と外向の実践とを支えられてきました。民藝にあやかって楽藝(['gakugei]:第1音節にアクセント)と称して、トリカード・ムジーカの活動を…

駒尺喜美『紫式部のメッセージ』(こましゃくきみ、朝日選書、1991年)

駒尺喜美さんは祖母・小西綾と約50年連れ添った同居人。小西・駒尺は日本のフェミニズム黎明期を牽引したうちの二人で、一定以上の世代の女性学に携わる人ならまず知らない人はいないと信じます。綾は、単著は1冊も残さなかった運動家で、東京での勉強会の中…

渡植彦太郎『仕事が暮らしをこわす ─使用価値の崩壊─』(とのうえひこたろう、農文協人間選書、1986年)

就職して2年目の頃、農文協人間選書の渡植彦太郎「経済社会学」三部作『仕事が暮らしをこわす』『技術が労働をこわす』『学問が民衆知をこわす』をセットで購入、このうち、唯一読了できたのが本書です。キャッチィな書名から、何が書かれているのかだいたい…

ブルーノ・ワルター『音楽と演奏』(渡辺健 訳、音楽之友社、2013年新装復刊)

『主題と変奏』『ブルーノ・ワルターの手紙』と並ぶ、ワルター三大翻訳書の一つ。大学生の頃、『音楽と演奏』だけが長らく品切となっていました。確か大学の図書館などにも見当たらず…。で、そうなると、『変奏』『手紙』を読み終えていたわけでもないのに、…

現代数学の難しさについて

数学セミナー9月号。特集「現代数学の難しさについて」には,思わず膝を打つことが書かれていました。 ──────── 私たちが数学に遭う際,1度目はえてして要領を得ず,[理解は2度目]以降となる。人に数学を説明すると「よく分かりました.前の先生はなぜこう説…

マァイケル・ヨンデル「ハードカバーと白熱電球」(14)

安冨歩 『原発危機と「東大話法」 傍観者の論理・欺瞞の言語』 (明石書店、2011年) 原発問題はもちろん、現代日本社会の問題に向き合うための、リテラシー的必携文献だと思います。 ──── 原子力村がショッカーである以上、小出さんは仮面ライダーです。そ…

マァイケル・ヨンデル「ハードカバーと白熱電球」(13)

小出裕章『原発はいらない』(幻冬舎ルネッサンス新書、2011年) 小出さんの本はたくさん出ていますが、現時点で、共著でないものからどれか一冊推すとすれば、私は本書を選びます。 ──── 原発建設は、いわば国家の至上命題であり、同時に電力会社も利益を増…

マァイケル・ヨンデル「ハードカバーと白熱電球」(12)

民族文化映像研究所 映像民俗学シリーズ「日本の姿」第15巻 『世界文化遺産 飛騨白川郷 草・つる・木の恵み』 (DVD、紀伊國屋書店、2005年) ──── 法隆寺の建材のくずを集めて、木の強度の研究をなさった小原二郎先生が、「木の文化」という本をだされてい…

マァイケル・ヨンデル「ハードカバーと白熱電球」(11)

チャールズ・テイラー 『<ほんもの>という倫理 近代とその不安』 (田中智彦訳、産業図書、2004年) 3冊立て続けにサンデル関連の本について書いてきましたが、実は私がより関心を持っているのは、名前まであやかっているマイケル・サンデルよりも、その…

マァイケル・ヨンデル「ハードカバーと白熱電球」(10)

マイケル・サンデル 『公共哲学 政治における道徳を考える』 (鬼澤忍訳、ちくま学芸文庫、2011年) こんにちは、マァイケル・ヨンデルです。 前回(『サンデルの政治哲学』)で紹介した4つのサンデルの著作のうち、翻訳版としてはこれが一番後発です。『ハ…

マァイケル・ヨンデル「ハードカバーと白熱電球」(9)

小林正弥 『サンデルの政治哲学 <正義>とは何か』 (平凡社新書、2010年) こんにちは、マァイケル・ヨンデルです。 本書には、「ハーバード白熱教室」および『リベラリズムと正義の限界』『民主政の不満』『(人工的人間)完成に反対する理由』(注)『公…

マァイケル・ヨンデル「ハードカバーと白熱電球」(8)

野間秀樹『ハングルの誕生 音(おん)から文字を作る』 (平凡社新書、2010年) こんにちは、マァイケル・ヨンデルです。 ハングルの表音文字としての合理性について、薄々は知っていたつもりですが、その様相が想像以上にすごいことをこの本に教わりました。…

マァイケル・ヨンデル「ハードカバーと白熱電球」(7)

こんにちは、マァイケル・ヨンデルです。 森達也『A3』(集英社インターナショナル、2010年) 「オウム真理教の側から社会を撮った」2つの映像作品『A』『A2』に続く完結編。ただし、今度は活字(本)です。500頁余りながら、一気に読めました。著者渾…

マァイケル・ヨンデル「ハードカバーと白熱電球」(6)

マイケル・サンデル 『これからの「正義」の話をしよう いまを生き延びるための哲学』 (鬼澤忍訳、早川書房、2010年) こんにちは、マァイケル・ヨンデルです。長らくとごぶさたしてしまいましたので巻頭言を再掲します。 「書評夢情」「書法夢我」「値張れ…

マァイケル・ヨンデル「ハードカバーと白熱電球」(5)

前田英樹『日本人の信仰心』(筑摩選書、2010年) こんにちは、マァイケル・・ヨンデルです。 一昨年秋から、柳宗悦に傾倒しています。そのきっかけは二つありました。一つは鳥取で出逢った『限界芸術論』が柳について触れていたからです。そしてもう一つが…

マァイケル・ヨンデル「ハードカバーと白熱電球」(4)

こんにちは、マァイケル・ヨンデルです。前回のつづきです。 物理学者/エスペランティストの小西岳に、『きらめく数学』第1章を読んでもらい、意見を乞うたところ、次のようなコメントが届きました。 ──── 数の集合拡大のルールと言えば、 環の公理が成り…

マァイケル・ヨンデル「ハードカバーと白熱電球」(3)

──── 多くの人から寄せられる質問に、なぜ(-1)×(-1)=1なのかというのがあります。貯金と借金を考えたり、未来と過去を考えたりといろいろな説明の仕方がありますが、もっとも究極な答えは、 そのように決めたから ということです。えー、と思われたかも知れ…

マァイケル・ヨンデル「ハードカバーと白熱電球」(2)

──── O氏「 0 は何もしないということだから,a+0=a はわかる.しかし,なぜ a×0=0なのか,高校のとき以来ズッとわからん」. 私(しばらく無言)「 0 が何もしないという意味なのは,足し算のときだよ.かけ算のとき,何もしないに当たるのは1なんだ.だ…

マァイケル・ヨンデル「ハードカバーと白熱電球」(1)

──── 実際、この波動と粒子の問題において、ほかのどんな問題においてよりもいっそう、痛感されることは、われわれが直接的経験というものによってどんなに悪く教育されているかということであり、またわれわれが、どれほどまでに、初期の力学的経験の一面性…

マァイケル・ヨンデル「ハードカバーと白熱電球」(0)─予告─

====== 時流にのって?新カテゴリーを追加します。シューチョが読書家マァイケル・ヨンデルに変身、ブックレビューを「クリ拾い」から独立させ、今後はこちらからお届けします。 ====== こんにちは、マァイケル・ヨンデルです。全国のヨンデル姓のみなさんも…

クリ拾い (28)

C・ダグラス・ラミス『ガンジーの危険な平和憲法案』 (集英社新書、2009年) 8月の新刊。発行日に購入。「非暴力不服従」のガンジーを「独立の父」に持つインドが、どうしてまた核実験をやるのか、という素朴な疑問を抱きつつも、これまであまり深く考え…

クリ拾い (25)

瀬戸一夫『科学的思考とは何だろうか』(ちくま新書、2004年) 「相対性理論を数式無しで説明する」という試みは、他にも多く行われているのでしょうか。僕は本書で初めてお目にかかりました。一読、なるほど丁寧とは思いましたが、やはり数式を用いた方がシ…