音楽の編み物

シューチョのブログ

クリ拾い (24)

 『ヤッターマン』のオープニング/エンディングの主題歌の話題に関連して、一つ思い出したのが『月光仮面』の主題歌のことです。50年代のモノクロ実写版の主題歌は有名で、まさに「誰もがみんな知っている」でしょう。ところが『月光仮面』は70年代前半にアニメーション版(『正義を愛する者 月光仮面』)も作られていて、そちらの主題歌は

歌詞は実写版と同一で、曲が異なる

というものでした。これはなかなか“粋な計らい”でしたねえ。実写版のテイストを残しつつ、それでいてリズム・和声・旋律の三要素ともが明らかにモダンに作り直され、当時小学生の僕にもオシャレな感じでかっこよく聞こえたものです。「やっぱり月光仮面といえばあの曲でないと」と難癖を付けたくなりそうなものですが、全くそうは思わなかった。かといって、元の曲に対しても「古い/ダサい」とは思わず、どちらもいいな、と認めることができました。この辺り、僕が実写『月光仮面』の“現役世代”ではなかったからということも関係しているのかもしれませんが…。アニメ版の旋律を知らない人にはぜひそれを聴いてほしいなあ。「はやてのように現れて」以降が平行調長調に転調する所など、久保田早紀の名曲「異邦人」のサビにも似て雄大です。…ウーン、聴きたくなったぞ。

Wikipediaによると、主題歌名は「月光仮面は誰でしょう」、作詞がドラマ原作者の川内康範(これは想像がついていました)、作曲は実写版は小川寛興(注1)、アニメ版は三沢郷とのこと。おぉ、三沢郷か、なるほど、さすが。数では菊池俊輔渡辺宙明に及びませんが、特撮アニメソングの代表的作家の一人といっていいでしょう。三沢の曲はいわゆる「歌メロ」が美しいことの他に、金管によるインパクトのある前奏と弦主体のロマン的間奏が特徴的です。代表作は「デビルマンのうた」「エースをねらえ!」、僕の一押しは「流星人間ゾーン」、これらも繰り返し聴きたくなるいい曲です。

さらに、アニメ版を歌うのはボニー・ジャックス(およびひばり児童合唱団)とのこと。そうか、と再び大きく納得。ボニー・ジャックスといえばキングレコード版「タックの歌」での名歌唱が忘れられません(注2)。

さて、『ヤッターマン』も、新アニメ版か映画版か、どちらかをこの手で行けばおもしろかったのでは。しかし、「山本正之以外の作曲家による、山本節を継承しつつもそれとは異なる、がそれに匹敵しうる、“変奏的新曲”」というのは、実に難しい課題のような気もします。しかもそれを自作自唱できる作曲家!となると…、そうか、これはもう『勇者王ガオガイガー』の田中公平しかいない(注3)…と、たのしい想像が膨らみます。

注1:服部良一の弟子だそうで、そういえば彼の「月光仮面は誰でしょう」には「青い山脈」の雰囲気がありますね。

注2:現在ではウルトラ主題歌関連はいわゆる「オリジナル」(本編で使用された“正統”系のもの)しか流通しません。これはたいへん残念なことです。「タックの歌」で言えばハニーナイツ/みすず児童合唱団の歌うコロムビア版しか出回らない。音楽を素で評価すれば、編曲も音質も演奏もキング版の方が優れていると僕は思います。当拙文の他の段落とも合わせたこれら一連の話題から、改めて「本物とはどれか/何か」という問いを立てると、「言の葉と音の符、楽の譜は文の森」や「音楽テーゼ」でも扱えそうなテーマです。

注3:「オリジナル」の歌唱は遠藤正明ですが、作曲者自身の伴奏・歌唱によるデモテープが存在します。しかもこちらは「タックの歌」と違って「オリジナル」とともに一つのCDに収められていたりする。普通に聴くならやはりプロ歌手の遠藤ヴァージョンを採ることになりましょうが、田中の歌唱もさすがに自作のツボをすべて心得ている。彼は「BS熱中夜話」において「これをちゃんと歌える歌手がいたら出てこい、というつもりで作った」と本作への思い入れを熱く語っていて、その言葉通りに、かなり気合いを入れて歌っています。「本物と同格/別の本物」の好例といえましょう。鈍くて平凡な自作自演を大量にリリースした某吹奏楽作曲家なんかとは事情が全く異なりますね。