音楽の編み物

シューチョのブログ

甘い生活(野口五郎)

三連連唱の調べ[第8回](短調編)

 

[07] 甘い生活☆☆☆☆(山上路夫筒美京平野口五郎

https://www.youtube.com/watch?v=AvIpuUdS0iQ

 

甘い生活」は前回の「池上線」と非常に似ていて、特に歌い出しアウフタクトからの4拍の旋律線はほとんど同じです。そこから、「池上線」では「ドアのそば」に乗る旋律はそこだけ取れば「ごく普通」の接続的進行であるのに対し、「甘い生活」ではポンと1オクターブ跳躍して「モーニングカップ」という歌詞のキーワードを際立たせる。いわゆるAメロから掴みOK、サビでは高音を張り上げ劇的に盛り上がる。よくできた映画音楽のようです。さすがは長けた職業作曲家・筒美京平、ニクイですね。「んー」とは違う(笑→注)。

 

注:前回拙稿参照。「池上線」のサビには「池上線」という歌詞が乗り,その旋律線のクライマックスに「線」の「ん」が来ることを言っています。…それでも、「池上線」も何度も聞くうちには、その沁み出るような渋い味もわかってきます。プラハかっこえー!ジュピターすげえ!とモーツァルトに圧倒されつつ、そのうち、ハイドンのオックスフォードやロンドンをスルメを噛むように楽しめるようにもなる感じ…?ですかね。

 

☆☆☆☆(拍頭連唱歌、切分連唱歌) 拍頭単連唱または拍頭複連唱を多く含むもの。 長さ10以上の連唱を含むもの。 切分連唱や切分準連唱を多く含むもの。

 

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池上線 ─後ろ姿を追うアウフタクト単連唱─

三連連唱の調べ[第7回]
 
[06] 池上線☆☆☆☆(佐藤順英/西島三重子、西島三重子)
 
実は、本連載を始めるきっかけとなったのが「池上線」でした。確か、「地底のランナー」(注1)をYoutubeで視聴した際に横のリストに挙がってきたのだったと思います。
 
注1…キダ・タロー屈指の名曲。CDも持っているのですがYoutubeでも見つけつい視聴したのでした。
 
この最初の「発掘」によって私は、既知の三連連唱歌に気を引かれていただけの段階を超え「収集してみよう」「調べを調べてみよう」と思い立ったのでした。
 
歌い出しから拍頭単連唱が続きますが、それが主に弱拍から始まっている点が「氷雨」「想い出まくら」とは異なります。「氷雨」「想い出まくら」は、拍頭複連唱も強拍から始まり、そこに“訴え・甘え”の歌詞が乗る…、その感情のままのストレートなモノローグに、強拍拍頭連唱が実に似合っていたといえます。対する「池上線」の歌詞は叙事的で控えめ、主人公の女性は「氷雨」「想い出まくら」の二人よりもおとなしくしおらしい?印象です。旋律線もそれに応じ、連唱部分はそのすべてが弱拍から始まっていて、後ろの強拍へ寄りかかるように連なっていきます。また、サビの直前の「ハンカチーを」の「ー」が直前の「チ」と異なる音程に下げて歌われることで切分6連唱となる所にはいかにも三連連唱歌らしい味わいがあります。サビの始めは「(池上)せんー」。旋律線の頂点に乗る歌詞が「んー」とは…。実に珍しく、通常ならセオリー的にはまずい作法なでしょうが、この曲ではかえってそれが、鉄道路線名をタイトルとサビに持つ歌としての魅力の一つとなりました。自作自唱の西島三重子はそれを心得てか、さすが、すっきりとよく鼻に抜けているようです。
 
編曲もよく、前奏では、冒頭の鍵盤ハーモニカ?による三連連“奏”旋律の音色と、そのあとに続くヴァイオリンの細かい下降音型とが、どちらも印象的で耳に残ります。
 
カバーも豊富のようです。私の選ぶベストは、祝友子(いわいともこ)です。次から次へと、楽譜の音符に忠実に歌詞を乗せていく(注2)彼女の歌唱は、オリジナルと同じかさらに速いかというテンポとも相まって、車窓に移りゆく光景の速度を最も感じさせます。拍頭単連唱の各拍頭音が文字通りオンビートなのはもちろんのこと、頻出する拍央からの準連唱についても、唯一「じっと」のみ少し“ため”を効かせる以外は、「話す」「胸に」「白い」「握り」「今日も」のすべてを、きちんと拍央に嵌めていく。実は本家西島三重子もほぼ同様なんですが、祝友子の方がより徹底され、まさに指圧でツボを隈なく押されていくような心地よさが加わっています。それでいて、ただサクサク過ぎるだけではなく、「さがしながら」、「震えて」、「あなた」の「あ」、(2番の)「だわね」の「わ」などなど、歌詞カードのほぼ一行に一度は発音発声の聴かせどころがあって、主人公の女性の内面の襞が細やかに表出され、つい耳を澄ませたくなります。例の「んー」も実に女性っぽい鼻抜け声で、仄かな色気が匂います。最後に僅かにディミヌエンドがかかって終わるのも歌謡曲としてはレアですね。また、編曲/編曲者が原曲とは異なっていて、これがまたいい。あくまでも原曲の雰囲気/世界を保ちながらもまったく別の調べを鳴らす、真っ当な異編曲です。なかでも、前奏の、この曲の弱拍拍頭連唱の構造を直前予告するかのような弱起単連奏動機の反復と、中サビ前の三連符の連続音動機が、必然的かつ魅力的です。
 
「ごめんねなんて(言ったわ)」も地味な聞きどころ/比べどころです。祝友子はここをインテンポで通り過ぎ、ピュアな拍頭複連唱を聞かせ、潔いです。その逆に、リズムを「ごめんね…、なんて」という具合にまでかなり崩すカバーがあります。「まるで台詞のよう」「言葉を大事にしている」ともてはやされそうな仕方です。が、この「ごめんね」は、一人語りで私情を吐露する中で相手の声を回想しているのであり、芝居がかり過ぎてはおかしい。その点、本家西島三重子の「..ごめんね.なんて」とする一瞬の間(ま)は、一人称歌の語り口として相応しいと感じます。
 
注2…原譜がどうなっているのかは不明です。ある程度の線を予測してこう書いています。
 
また、カバーの中にはいくつか、どうしたことか、テンポの遅いものがあり、解せません。本連載で通底して伝えている(いく)「三連連唱歌のそれとしての魅力」とは、「パワフルな畳み掛け」です。「速いけれども軽く通り過ぎはしない」ところです。たとえ個々の例では原曲自体も遅い場合があるとしても、類的特徴としてはそう言えます。そもそも、テンポをただ遅くすれば、より気持ちを込められる/歌詞を大事に伝えられる、という考えがあるとすれば、まことに浅はかな発想です。加えてこの曲の場合、上述したように、電車に乗って景色の走馬灯を目にしている、というこの歌詞の本質を横に置いた時点で、歌詞を大事になどしていないことになります。すなわち「池上線に揺られ」ていない。言葉が嘘になってしまうのです。もちろん、遅く走る電車もあろうし、遅いテンポによるすばらしい歌唱・演奏の可能性までを否定してはいませんが。
 
とここまで書いてきて、ふと思い浮かびました。…あるいは、研ナオコが歌えば、スローな「池上線」もきっといい歌になるのではないか…。
 
西島三重子
https://www.youtube.com/watch?v=DbtjS_tU92A
 
祝友子
https://www.youtube.com/watch?v=YaD32OmHUQo
 
☆☆☆☆(拍頭連唱歌、切分連唱歌
拍頭単連唱または拍頭複連唱を多く含むもの。
長さ10以上の連唱を含むもの。
切分連唱や切分準連唱を多く含むもの。

話してよ、話してよ。─岡崎友紀─

三連連唱の調べ[第6回]

 

☆☆☆☆(拍頭連唱歌、切分連唱歌
拍頭単連唱または拍頭複連唱を多く含むもの。
長さ10以上の連唱を含むもの。
切分連唱や切分準連唱を多く含むもの。

 

[04] 氷雨☆☆☆☆(とまりれん、佳山明夫)
[05] 想い出まくら☆☆☆☆(小坂恭子)

 

強拍からの拍頭単連唱を重ねる2曲。それにしてもこの2曲、よく似ています。

 

氷雨」の日野美歌はカバーであることは後になって知りました。オリジナル(元祖)だけがよいとは限らないと前々回「能登半島」について書いたばかりですが、「氷雨」の歌唱については(平均して)佳山明夫に一日の長があるように思えます。

「想い出まくら」には多数のカバーがあるようです。八代亜紀森昌子小柳ルミ子…といった“大物”ですと、それぞれ歌手の良さ=“大物ぶり”の再確認はできても、曲の歌唱自体に惹かれるという感じではなくなります。

 

林あさ美は無いようで、残念です。

 

…ということで、10人以上聴いた中では、長山洋子がいいですかね。誰でもつい崩したくなる箇所もオンビートで過ごしながら、フレーズの急所を引き立たせる歌唱となっています。崩さずとも聞き手を引き込む節回しは作れるのだ、ということを体得している人であることが伝わってきます。次いでは、椎名佐千子森山愛子にも、類似の良さを聴き取れました。

 

けれども私が最も驚いたのは、岡崎友紀です。

 

ほんもののマルチタレント、ここにあり。今この時代になってようやく彼女のすごさに気づき、視聴できるものを次々と散策しては深く首肯しているところです。TVでの活躍当時からそのことを知るには、残念ながら私は少し幼過ぎました(笑)…。最近もライブ活動などされているようで、幸いです。

 

「想い出まくら」でも、癖のない澄んだ美声による細やかで気遣いの行き届いた発音発話についつい惹かれていくと、「話してーえーよ」の「え」で裏返り、あれ外した?どうした?と思って、2番に来ると、また全く同じようにぶれずに裏返る、そうか、裏返るのではなく裏返しているのか、と気づき、最終リフレインに来て耳を澄ますとやはり。3度の同じ「外し」は、もう意図的な表現である証拠です。その確かな技術性。──ちゃんと3回歌っていると信じますが…、仮に1テイクを使い回したのだとしても、そうしたくなるくらいその1回がパーフェクト…という気持ちはよくわかるから許す、といえるほどです(笑)。──

 

氷雨
佳山明夫
https://www.youtube.com/watch?v=qCYx0qo7Jtg

 

「想い出まくら」
小坂恭子
https://www.youtube.com/watch?v=KOmqSISgG6o

長山洋子
https://www.youtube.com/watch?v=HfQQcja_SB0

岡崎友紀
https://www.youtube.com/watch?v=qByWzzbb_w0

僕にまかせてください ─流麗な多連唱─

三連連唱の調べ[第5回]

短調編 (3) 僕にまかせてください

 

[03] 僕にまかせてください☆☆☆☆☆(さだまさし、クラフト)

 

さだまさしのグレープ時代の提供曲の佳作。婚約相手の母親の墓に参る歌。相手を失う「精霊流し」よりはまだしも明るい歌といえます…。歌い出しから、流麗な「切分14連唱+拍頭複連唱」。「流麗」というのは、「津軽海峡」や「能登半島」のような「同音程の畳みかけ」ではなく隣接2音がすべて異なる音程で連なる、という著しい特徴のことを指します。四七抜き(でないのにそう)かと思うほど素朴、でありながら似ている曲が他になさそうな、ピアノ独奏に向いているような独特な旋律線です。サビでは拍頭単連唱が多発(こちらは同音程も有)、それが2番では「彼岸過ぎ[たら]」と一部切分連唱に変化するのも味わいがあります。Wikipediaにはタイトルについてのエピソードが載っているようです。曲自体を直に聴けば、やはり作者の意向だった「彼岸過迄」の方が断然ふさわしいと思います。

 

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☆☆☆☆☆(多連唱歌
長さ10以上の連唱が複数箇所に認められるもの。連唱度の高さを☆の数によって五段階に分けています。☆の数毎の呼び名と説明は、「定義」や「類別」とは違って、もっと緩い、一つの目安として付けています。
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https://www.youtube.com/watch?v=5ticMcjrdXE

 

ここで余談を一つ。定義集に「連唱の次数」というものを載せました。

 

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(8) 連唱の「次数」
「『1つの連唱に含まれる拍頭音の総数』から1を引いた整数」を連唱の「次数」という。次数がnで長さがkの連唱を「次数nのk連唱」または「n次(の)k連唱」という。
例えば,以下の連唱の次数はいずれも2である。
(8-1) 拍頭からの長さ7以上9以下の連唱
   j i i j i i j,j i i j i i j i,j i i j i i j i i
(8-2) 拍央からの長さ9以上11以下の連唱
    i i j i i j i i j, i i j i i j i i j i ,i i j i i j i i j i i
(8-3) 拍尾からの長さ8以上10以下の連唱
    i j i i j i i j, i j i i j i i j i ,i j i i j i i j i i
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この「次数」は、定義集未読でもほぼ理解可能な他の諸用語とは一線を画すため、本文に使うのを遠慮しています(頭掻)。このまま『ウルトラセブン』のカプセル怪獣以上に“登場しない”用語になるかも。

 

ただ「次数」にもちょっとした面白みはありまして、これを使って、個々の曲を連唱の観点のみから抽象化した

 

連唱多項式

 

というものを導入できます。

 

精霊流し…3x^3+20x+1(「愛した」を準連唱と見做した場合)
心のこり…5x^2+5x+4
津軽海峡冬景色…3x^6+x+6(「ときから」を連続音と見做した場合)
(例えば「x^2」は「xの2乗」を表す。)
……

 

というように、次数nの各曲にn次多項式を対応させるのです。これを使うと「連唱の度合い」を様々に数値化することもできそうです。題して『多連唱解析の理論〜連唱多項式とその応用〜』(笑)。いや、実はさらにふさわしい数理モデルもあるのかもしれません…。

 

しかし、本稿の目的はあくまで三連連唱の歌の紹介と解説にありますので、数理モデルの詳細には立ち入らないことにします。したがって、本稿の☆の数も、数理的な一意性などはなく、初めに断った通りあくまで私の主観・感覚に依って付けたものです。

 

余談はこのくらいにし、次回からは短調編☆4つの曲を採り上げていきます。このグループこそが三連連唱歌の典型といえます。

能登半島 〜三連連唱の鑑〜

三連連唱の調べ[第4回]

 

短調編 (2) 能登半島☆☆☆☆☆

 

連唱度の高さを☆の数によって五段階に分けています。☆の数毎の呼び名と説明は、「定義」や「類別」とは違って、もっと緩い、一つの目安として付けています。

 

☆☆☆☆☆(多連唱歌) 長さ10以上の連唱が複数箇所に認められるもの。

 

[02] 能登半島☆☆☆☆☆(阿久悠三木たかし石川さゆり

 

津軽海峡冬景色」の次にリリースされたのがこの「能登半島」ですね。

 

詞曲とも同一作家のこうした連続リリース曲のペアに対する、“二番煎じ”といった揶揄は、その作家たちが自嘲を込めて言うなら意義もあるでしょうが、自ら創作しない/できない者が言うのは通常は慎しみたいと考えます。作品の享受者としての我々には、作家一人の創作とはどういった行為なのか、その機微についての想像力が必要だと思います。似ていることはそれだけではけっしてマイナスにはなりません。知らない人にはハイドン交響曲はどれも同じに聞こえるかもしれませんし、「ブルックナーは同じ曲を何回も書いた」というのもある意味当たっているともいえる。そのどれもが素晴らしいというだけです。

 

話を戻しますと、「津軽海峡・冬景色」より「能登半島」の方が曲のテンションはさらに上がっているというふうにも私には見えます。少なくとも「より売れた方/初めに出た方が、やっぱりよい」と単純には言えないのです。 「能登半島」は「津軽海峡・冬景色」よりも1拍少ない拍頭16連唱で始まります。…いえ、「荒く」が“揺らし”で歌われれば、すなわち「あーらく」の「あ」と「ー」の音程が異なれば、同じく19連唱になります。しかもこちらはその多連唱が、それに応じた長い非連唱を挟むことなく立て続けに2回現れ、その後も息つく暇なくほぼすべてのフレーズが連唱または準連唱となっています。「十九(じゅうく)」の準連唱も、いったん音域を沈ませてサビへの助走を付ける旋律線と相まって一度聴いたら忘れない印象を残します。目立つ非連唱部分はサビの「ゆく旅は」「能登半島」の2箇所くらいしかありません。他にわずかに「恋」の2箇所が連唱でも準連唱でもありませんが、これも「拍央音+長音」の2音から成り、拍頭の休符とセットになって拍頭からの準連唱のような聴感になります。いわば“準々連唱”なのです。そして、「あなた、あなた訪ねて」を聴くに至り、三連連唱の醍醐味は、何も多連唱の長さにだけでなく、こうした、歌詞としっかり連動した準連唱や拍頭複連唱のパワーにこそある、ということがよくわかります。

 

このように、「能登半島」はまさに三連連唱の鑑ともいえる1曲です。

 

ところで、この曲も曲先でしょうか。二匹目のドジョウ?(揶揄としてでなく(笑))を狙った作家コンビの間には、ひょっとすると「次も三連連唱で行こう」という事前了解があったのではないか、その上でなら今度は詞先ということもありえるのではないか…そういう想像も楽しいですね。

 

この曲には幸い、林あさ美の名歌唱が残されています。最後のリフレインのみカットの、ほぼフルコーラスというのも嬉しい。 歌謡曲の多くでは持ち歌歌手がいてこその歌作りになることはもちろん承知しています。この「能登半島」もそうなのでしょう。それでも、できあがった作品は、以後独立に一つの歌として存続します。“後世に残る”ものほどそういう存在だといえます。すると、作品自体の曲─歌としての普遍的魅力をピュアに見出すには、持ち歌歌手の個性をいったん脇に置くのもよい、聴き馴染みのみからの「やっぱり持ち歌歌手でないとね…」という先入観が大事なものの深い理解を妨げる場合がある、ということも、この機会にぜひ訴えておきたいと思います。──ただし上記本文のための「連唱認定」は石川さゆりの歌唱に依っています。──

 

https://www.youtube.com/watch?v=35YQrOYt7BU

三連連唱の調べ[第3回]

短調編 (1) 津軽海峡・冬景色


では、いよいよ三連連唱歌の紹介と解説に移ります。今回からしばらくは「短調編」をお届けします。


☆印を付けて五段階に分け、☆の多い順に挙げていきます。あくまで私の主観に基づいて、“連唱の度合い”が高いものほど☆を多く付けています。


また、☆の数毎に、(〜連唱歌)などと名付け、その特徴について説明を付けました。が、これらは前回のような「定義」とは異なり、ざっくりまとめた一つの目安であって、必ずしも互いに排他的に類別する呼び名にはなっていません。


☆☆☆☆☆(多連唱歌
長さ10以上の連唱が複数箇所に認められるもの。


[01] 津軽海峡・冬景色☆☆☆☆☆
阿久悠三木たかし石川さゆり


歌い出しから怒涛の拍頭多連唱。多連唱日本歌謡・短調曲の代表といえば、知名度も考慮するとまずは何といってもこの曲でしょう。「非連唱+準連唱」部分を巧みに挟みながら、「上野発の…」「北へ帰る…」「凍えそうな…」と同じ長さの多連唱が3回も歌われます。1コーラス中唯一の拍頭単連唱「連絡(船)」も力強く効果的です。「曲先」か「詞先」か知らないんですが、どうみても「曲先」ですよね。そこに、3音節、6音節の語句ばかりで15音つなげ、最後に4音節の語句を持ってくる拍頭19連唱!の歌詞を乗せる。その内容も、ほぼ具体的な叙事叙景のみによって普遍的な情景情感を導いている。みごとです。あるいは、もしこれで「詞先」なら、三連連唱の旋律に乗せることはむしろ必然になってきます。そうしない作曲家はもはや「才能ナシ」でしょう。


以下は細かい話になりますが…


長母音と連唱について。
「夜行列車」の「こう」は長母音で、「こ」と「う」の音程も同じ。よって厳密にはここで連唱が切れるともいえます。「長母音はあくまで長母音、送り仮名をそのまま発音するのではない」と言って譲らなかった父・岳の声を思い出します。今の例だと、「やこう」とは書くが発音は「yakou」ではなく「yako:」だということですね。そうだとしてもこの歌のここは「や」「こ」「ー」の3連続音に聴こえるともいえ…微妙です。2番の「竜飛岬」は文句なしの連唱ですね(次項参照)。


「ん」「っ」と連唱について。
「『ん』や『っ』は連唱を切ると見做すのか」という、「単位音価に乗る『ん』や『っ』」の認定問題というのもあります。「ん」については、聴感上独立音価として扱える場合も多くあります(→注)。ただ、前項とは反対に1番の「上野」に対応する2番の「ごらん」の「ん」は、単なる[n]なのか独立音程(独立音価)なのか微妙ですね…。「っ」については、音程不定としての×印の符頭を与えて音価と認め、他の音と同様に扱うことにしましょう。つまり休符ではないと捉えるのです。この曲だと「列車」は連続音と見做せます。加えて、「津軽海峡・冬景色」の「列車」の「っ」はどうかというと、「れ」「えっ」「しゃ」という具合に「えっ」にも音程(しかも直前の「れ」と異なる音程)を設けて歌われているともとれ、十分に連唱と認定できます。


注…単位音価音に限らず、日本語の歌における「ん」は、独立(と見做せる)音価が与えられることが少なくありません。ここが欧米語の[n]とは違うところで、「日本語の歌には、旋律だけを取り出しても曲として美しいものが多い」ことの理由の一つになっていると考えます。この辺りは後に詳述しようと思っています。

 


津軽海峡冬景色 石川さゆり Ishikawa Sayuri

三連連唱の調べ[第2回]

──本稿(「三連連唱の調べ」全回全文)を亡き父に捧げる。──

定義集

以下のすべてにおいて,k,nは正の整数(1,2,3,……)とする。

(1) 「拍節音価」および「単位音価概念」
「旋律中のどの長さが1拍の長さであるか」については,本稿で扱う曲ではすべて「聴感上明らか」としてよいと思われる。その1拍の音価を「拍節音価」という。原則として,歌詞の語句の一音節が乗る音価のうちの最短の音価を「単位音価」という。すなわち三連連唱を扱う本稿においては「拍節音価の3分の1の音価」を単位音価とする。拍節音価の3分の1よりもさらに短い音価に歌詞の音節が乗るような例外的な曲もいくつか扱うが,その場合でも「単位音価」は「拍節音価の3分の1」とする。

この(1) がやや回りくどい表現になるのは,各曲の楽譜が何分の何拍子で書かれているのかは一般には不明なためである。4拍子か2拍子かは聴いただけでは不明,実質2(4)拍子である8分の6(8分の12)拍子の可能性,速い3拍子を1小節1拍にとる場合,そもそも“分母”の音符の種類は今は本質とは関わらない…などなど,様々を考慮していった一つの着地点として,上のようなまとめになる。多くの曲では「4分の4拍子,1拍中の三連符は8分音符の三連符」として書かれているだろうから,以下では,「拍節音価」を「4分音符(の音価)」,「単位音価」を「3連符連桁内の8分音符(の音価)」に置き換えて読んでもらっても大方差し支えない。

(2) 「長音」
単位音価よりも長い音価の音符を「長音(長音価音)」という。

(3) 「拍頭」「拍央」「拍尾」
1拍の中の単位音価の3つの位置について,先頭位置を「拍頭(はくとう)」,中央位置を「拍央(はくおう)」3つめの位置を「拍尾(はくび)」という。拍頭の音を「拍頭音(はくとうおん)」,拍央の音を「拍央音(はくおうおん)」,拍尾の音を「拍尾音(はくびおん)」といい,それぞれの略称を「頭音(とうおん)」「央音(おうおん)」「尾音(びおん)」とする。

(4) 「連続音」
旋律の歌唱(の記譜)に「単位音価音ばかりが2個以上続いて並ぶ箇所」がある場合,次の(4-1)または(4-2)のいずれかの部分のことを「連続音」という。
(4-1) その箇所の直後が長音ならば,先頭の単位音価音からその長音までの(すなわちその長音自体も含む)部分
(4-2) その箇所の直後が休符ならば,単位音価音の並んだその箇所全体

(5)「開始音」「末音」
連続音の最初の音を「開始音」という。
連続音を形成する最後の音(すなわち(4-1)の長音または(4-2)の「休符」直前の単位音価音)を「末音(まつおん)」という。

(6) 連続音の「長さ」
1つの連続音に含まれる音の総数を連続音の「長さ」といい,長さがkの連続音を「長さkの連続音」または「k連続音」という。

(7) 「連唱」「k連唱」
頭音を2個以上含む連続音を「連唱(れんしょう)」という。k連続音である連唱を「k連唱」「長さkの連唱」という。

以下の「譜例」について。
◇末音を除き,拍頭の単位音価音を j,拍央・拍尾の単位音価音を i で表す。
◇末音だけは単位音価音と長音の区別をせず,拍頭なら j,拍央・拍尾なら i で表す。

(8) 連唱の「次数」
「『1つの連唱に含まれる頭音の総数』から1を引いた整数」を連唱の「次数」という。次数がnで長さがkの連唱を「次数nのk連唱」または「n次(の)k連唱」という。
例えば,以下の連唱の次数はいずれも2である。
(8-1) 拍頭からの長さ7以上9以下の連唱
   j i i j i i j,j i i j i i j i,j i i j i i j i i
(8-2) 拍央からの長さ9以上11以下の連唱
    i i j i i j i i j, i i j i i j i i j i ,i i j i i j i i j i i
(8-3) 拍尾からの長さ8以上10以下の連唱
    i j i i j i i j, i j i i j i i j i ,i j i i j i i j i i

(9)「単連唱」
「次数1の連唱」すなわち「頭音をちょうど2個だけ含む連唱」を「単連唱(たんれんしょう)」という。すなわち単連唱には,開始位置と長さによって区別すると次の9通りがある。
(9-1) 拍頭からの長さ4以上6以下の連唱
   j i i j,j i i j i,j i i j i i
(9-2) 拍央からの長さ6以上8以下の連唱
    i i j i i j,i i j i i j i,i i j i i j i i
(9-3) 拍尾からの長さ5以上7以下の連唱
    i j i i j, i j i i j i,i j i i j i i

(10)「多連唱」「重連唱」「複連唱」
「次数が2以上の連唱」すなわち「頭音を3個以上含む連唱」を「多連唱(たれんしょう)」という。(8-1)(8-2) (8-3) からもわかるように
(10-1) 拍頭からの長さ7以上の連唱
(10-2) 拍央からの長さ9以上の連唱
(10-3) 拍尾からの長さ8以上の連唱
は多連唱となる。多連唱のことを「重連唱(じゅうれんしょう)」ともいい,nが2以上のとき,n次の連唱を「n重連唱」ともいう。nが2以上のとき,以下はいずれもn重連唱である。
(10-4) 拍頭からの長さ3n+1以上3n+3以下の連唱
(10-5) 拍央からの長さ3n+3以上3n+5以下の連唱
(10-6) 拍尾からの長さ3n+2以上3n+4以下の連唱
2重連唱すなわち2次の連唱を特に「複連唱」ともいう。

(11)「準連唱」「準連唱の次数」
「長さが3以上の連続音のうち,頭音をちょうど1個だけ含むもの」を「準連唱(じゅんれんしょう)」という。すなわち準連唱には,開始位置と長さによって区別すると次の6通りがある。
(11-1) 拍頭からの3連続音 j i i
(11-2) 拍央からの長さ3以上5以下の連続音
   i i j,i i j i,i i j i i
(11-3) 拍尾からの長さ3または4の連続音
    i j i,i j i i
準連唱にも次数を与える。準連唱の次数は0と定める。

(12)「拍頭連唱」
「開始音と末音がともに拍頭音である連唱」すなわち「拍頭からの3n+1連唱」を「拍頭連唱」という。例… j i i j i i j (長さ7の拍頭連唱)

(13)「切分的」「切分連唱」
末音が頭音でない連続音を「切分的」と形容し,切分的な(準)連唱を「切分連唱(せつぶん(じゅん)れんしょう)」という。
準連唱は,「拍央からの3連続音」を除き,すべて切分的である。
切分的な連続音は2種類ある。末音が央音(〜 j i )であるとき「拍央切分」,末音が拍尾音(〜 j i i )であるとき「拍尾切分」という。
例… j i i j i (拍央切分の切分5連唱)

補足1 「連唱および準連唱の個数」
ある曲の中の連唱や準連唱の個数について言及する場合は,特に断らない限りその曲の「1番(初めの1コーラス)」の中の個数のこととする。

補足2 「連唱の認定」
ある曲のある部分の連唱の成否・種類は主にその曲を歌う代表的歌手の歌唱の聴感によって行う。ただし,いわゆる「くずし」については,代表歌手が常にくずして歌っている箇所でも元の記譜は連唱と推定できる,などの場合はそこを連唱と見做すこともありえる。