音楽の編み物

シューチョのブログ

ピーター、ポール&マリー『CARY IT ON』

 

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小学校4年の頃から、60年代アメリカのプロテストソングにすっかりなじんでいました。父・小西岳のエスペラント訳の歌集をエスペラント関連の例会や合宿について行ったときに歌う──うたごえ運動の名残り?──ことで入門したのでした。ですから英語の原歌詞よりも父のエスペラント訳詞でまず入ったわけです。“Where have all the flowers gone?”ではなく“Kien floroj iris jam?”(キーエン フローロィ イーリス ヤム)、“Puff, the magic dragon…”よりも“Puff, la drak' magia…”(パフ ラ ドラック マギーア)の方が私のデフォルトでした。

 

ボブ・ディランピート・シーガージョーン・バエズなどを聴きましたが、音楽としては、やはりピーター、ポール&マリーが抜きん出ていると思いました(次いではバエズでしょうか)。今回挙げたCDセットは、もちろん大人になってから、確か発売(2003年)してすぐの頃に手に入れたものです。ちょうどその少し前にPPMが復活し、来日も幾度かしていたんだったと思います。同じタイトルのDVDもあります。

 

どれも、今聴いてもまったく古くない、一級の音楽。3人の作る、アコースティックギターの音と美しい和声の歌唱によって、どのナンバーも、詞と曲が、つまり歌が、沁み入るように伝わってきます。

 

いくつか順不同でセレクトしてみます。

 

「レモン・ツリー(Lemon Tree)」…洒落た転調が効いた、アコースティック・フォークソングならではの世界。

 

「虹とともに消えた恋(Gone The Rainbow)」…Shule, shule, shule-a-roo, Shule-a-rak-shak, shule-a-ba-ba-coo の歌い出しが耳から離れません。

 

「パフ(Puff, The Magic Dragon)」…泣かせる絵本。

 

「花はどこへ行った?(Where Have All The Flowers Gone?)」…摘まれた花はどこから来たのか?題名との悲しい反転・輪廻。

 

「天使のハンマー(If I Had A Hummer)」…こちらは父のお気に入りとして。当時の自宅の洋間のステレオで父といっしょにPPMのレコードをかけて聴いたとき、「ちょっと短いけれども、これが一番好きだ」と言って微笑んでいたのをよく覚えています。メインは通してマリーがとり、justice や freedom の語が、本心の語気で、目一杯の声量で、それでいて軽やかに歌い抜かれ、終わって静まったときにはたいへん清々しい気持ちになります。

 

さて、特に「花はどこへ行った」については次の(1)、(2)の特徴がPPMならではの大きな魅力になっています。

 

──以下、野暮を承知でネタバレ的に書き過ぎておりますのでご了承下さい。──

 

(1)

・歌い出しの Where 1音節に1拍の長さを与え(通常は where have で半拍ずつ)、続くhave all が必然的にシンコペーションとなる

・歌い終わりの When will they ever run? の直前にOh,の1音節を加え、後ろの ever runの3音節が半拍単位の連続音として詰まってくる

という、旋律線の絶妙な変更によって、旋律自体も歌詞の言葉も本質的なリズムを取り戻すかのように聞こえてくる。

 

(2)

同じ旋律箇所の和声の拾い方(転回の仕方)を次々に変える、4番での歌詞2〜3行目のフォルテ〜ピアノの思い切ったコントラスト、3人のボーカルがメインとサブを何度も交代していく、特に4番が終わる直前にさっと抜けたマリーが間奏無しで5番をかぶせてくる…等々、6回の歌の部分がどれ1つとして単なる繰り返しにならずに変化しいていき、それらの悉くがこの歌詞の物語を読み聞かせ、展開していく。その息もつかせぬ音楽的緻密さ。