音楽の編み物

シューチョのブログ

言の葉と音の符 楽の譜は文の森 (53)

 「特選オーケストラライブ クリストフ・エッシェンバッハ/パリ管弦楽団」を視聴しました。なかなか聴かせます。いやあ、しかけてきますねえ、エッシェンバッハ。テンポといいバランス(出し入れ)といい、スコアの細部に宿る楽音一つ一つまたそれらの織りなす流れが、実に雄弁に語りかけてきます。もちろん個々にはいくつか異論もありましたが、これだけ仕込んでくれれば全体として十分たのしめました。このマーラー第1は2007年だそうですが、以前、たぶんこれよりもさらに過去の別の演奏(曲は失念)を見たときは、そういったしかけ・工夫がただ鼻についただけという記憶があったのですが、今回はすばらしいと思いました。オーケストラと息があってきたのでしょう。前半のモーツァルトの弾き振り2曲のうちの23番K.488も見ましたが、こちらも随所にニクい工夫が施されていて、飽きさせません。

ただ、演奏とは直接は無関係ですが、カメラワークがわざとらしく、気に入りません。これ見よがしなアップや、天井からの回転撮りなど、技術や設備を披露したいためのようで、抑制がなく、静かにオーケストラを鑑賞する映像としてはふさわしくないと僕は思いました。これなら、N 響アワーなどの NHK の撮影の方がまだしも素直で見やすいのではないかと。

さて、マーラー第1、ホルンに立奏の指示があるフィナーレの例の箇所=第657小節(のアウフタクト)〜ですが、エッシェンバッハも第653小節(のアウフタクトの8分音符)から立たせていましたね。そこは作曲者がわざわざ「けっしてこの4小節前からではなく」と断っている箇所です。これは、指示通りに立たせると、間が2分の2拍子中の4分休符分しかなく(笑)、その前後が著しく吹きにくくなるからであろうと推察します。ま、ここの注(僕は日本語訳しか読めませんが(頭掻))、確かに「ホルンは音を強めることが望ましい」箇所が第657小節(のアウフタクト)からであって、それより前から立奏しても、注意深く「強めない」ように吹くのならばかまわない、という解釈も成り立つのかな。昔、スコア指示に忠実に、4分休符の間で素早くザッと音を立てて起立した演奏の映像を見た憶えはあるのですが、指揮者&楽団は残念ながら忘れました。どなたかそういう演奏をご存知でしょうか。