音楽の編み物

シューチョのブログ

言の葉と音の符 楽の譜は文の森 (57)

 レンタカーを借り,三田プレミアムアウトレットに繰り出そうとしたのですが、中国道の出口を間違えて「神戸三田 IC」よりも 手前の「西宮北 有馬 三田 IC」で降りてしまい(紛らわしいなあ)、それならいっそ「三田屋」で昼食にしようかということに。外食でステーキなんてほんとうに久しぶりです。三田屋といえばピアノの生演奏。これが予測をまったく裏切るいい演奏で驚きました。休憩を挟んで,その前のステージの途中からその後のステージの途中まで、10曲弱?を聴きました。ここでは3曲だけコメントしておきます。

「卒業写真」……のどじまん・ザ・ワールドのユリア・ベルナルドの純朴透明な歌唱が記憶に新しい曲ですが、そのユリアの魅力を玄人的にさらに高めた器楽版、という感じ。拍頭16分音符+付点8分音符の連続をどう弾くか、そうでしょ、というリズム感とフレーズ感。「そつぎょう(しゃしんのおもかげは)」などのこれも頻発上昇4音の,まさに痒い所に手が届くような彫りの深さ。旋律造型の手本。

休憩前は歌謡曲が中心でしたが、このノリでスカルラッティモーツァルトをやってくれれば…と思って聴いていました。

テネシーワルツ……終始オンビートの遅い3拍子で進みます。そのインテンポの堅実さ/揺るぎなさは、「1分間指揮者」がずっと演奏に合わせて三角形を振っていけるほどといえば伝わるでしょうか。悪い意味でのジャジイな崩しとは無縁なのが、まことに好感度大。江利チエミでも綾戸智絵でも僕の心の琴線に触れることの一切無かった曲のはずが、今日は「へーぇ、こんなにいい曲だったのか」と感心・感服。

「花は咲く」……これが白眉。普段なんとなく耳にする場面ではまず採られえないだろう遅めのテンポ。それは実に微妙な差で、メトロノームの数値にすればもちろん1の位の差になるのでしょう。しかし、たったそれだけのことで、冒頭数小節でもう曲の本質が溢れ出てきます。ピアノ独奏にこれほど向いている曲だったのだ、と気付かされます。それはこの曲の譜面を見れば(思い浮かべれば)ごく自然なことでもあり、いわゆる“サビ前”の「だれかのうたが…」の部分などは特にそうですよね。しかしそれだけによけいに真のセンスが問われるわけです。そういう一問一答の模範というべき名演でした。おみごと。

「花は咲く」が終わり、次の曲までの曲間で席を立つことにしましたが、僕の席はピアノに最も近いテーブルだったので、拍手をしながら、口の動きだけで「よかったです!」と伝えて席を離れると会釈をして応じてくれました。店の人に名前だけでも聞いておこうと思ってレジまで行くと、そこに写真とプロフィールが掲示されていることに気づきました。伊藤亜美(いとうあゆみ)さんという、三田が地元の方でした。

ともあれ、思いがけず豊かなひとときでした。出口を間違えてよかった(笑)。いやあ、どこに「ほんもの」がいるのか、わからないものですねえ。公演されることがあるなら、ブラームスの小品集などもぜひやって頂きたいところです。