音楽の編み物

シューチョのブログ

カイマナふぁみりー・タイキさん「故郷」

ギター1本による、しかも歌わない、つまり歌詞のない、「故郷」。

 

「歌わない」って、「歌唱はしない」という意味です。もちろんのこと、彼はギター独奏という器楽で「歌って」いるのです。

 

開始から数秒で引き込まれ、顔の奥からぐっと熱いものがこみ上げてきます。
普段のカイマナふぁみりー3人のギター演奏といえば、何といっても多く細かい圧倒的物量の音符がめくるめくスピードで迫ってくるところが魅力なんですが、このタイキさんの「故郷」は、それとはまた真逆の味わいです。

 

冒頭、前奏的に旋律のみがゆっくりと弾かれます。染み入る撥弦音の単音…、和声がなく対旋律がなくても、一音一音に込められた魂がそれらを繋げていき、けっして間延びすることがありません。悠久の持続、フォルム、つながりの空間、宇宙…。

 

その後の、主音のシンコペーションに乗せて、3音4音の半音不協和がたゆたい、また9th(上2度)へ係留する、前奏間奏の響き。伴奏としてはよくある音型ながら、タイキさんのそれは、繊細な織物の編まれていく過程を少しのスローモーションで見るような動きとして伝わってくる。湖面に広がり光る波紋の水を手で掬うように…静かに、優しく、深く。

 

そして、3コーラス目の前半で再び半無伴奏的部分にさしかかる。ここがクライマックスですね。回帰、回想、郷愁。情緒/情感の美と、形式/構造の美。

 

若い彼の真摯なほんものの芸術行為を目の当たりにし、こちらは同じく音楽演奏に携わる者として改めて襟を正すのみです(礼)。


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