音楽の編み物

シューチョのブログ

マァイケル・ヨンデル「ハードカバーと白熱電球」(2)

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 O氏「 0 は何もしないということだから,a+0=a はわかる.しかし,なぜ a×0=0なのか,高校のとき以来ズッとわからん」.

 私(しばらく無言)「 0 が何もしないという意味なのは,足し算のときだよ.かけ算のとき,何もしないに当たるのは1なんだ.だから a×1=a なんだ」.

 O氏は,だましているんじゃないかというような疑わしげな顔をして私を見た.とにかく,こんな禅の公案みたいな疑問に答えるのは容易ではない.「素人というのはむずかしく考えるものだなァ」と内心思ったが,それは口には出さなかった.

────『√2の不思議』(足立恒雄、ちくま学芸文庫、2007年、28~29頁)

 

 こんにちは、ちくま学芸文庫フリーク?のマァイケル・ヨンデルです。

 

 今回は、「なぜ a×0=0 か?」という話題について直接書きたいのではありません。「素人というのはむずかしく考えるものだなァ」という、溜め息のような著者の言葉、これに私も何だか共感してしまった、という話です。高校数学を教えることを仕事にしている私のような者はやはり数学そのものの玄人とは言えないのでしょうが…。数学では、「なぜ a×0=0 か?」の質問に1点の曇りもなく答えることが可能です(本書も別の箇所でこの証明に触れています)。当然です。しかし、それを懇切丁寧に説明しても、O氏のような人はたぶん納得しない。著者も直後にこう言っています。

 

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 私の答えはO氏の疑問に答えているわけではない.しかし,先に述べたような証明を開陳してみたところで,O氏は「論理的にはそうかもしれないが,納得いかない」と言うであろう.

────(29頁)

 

だから、著者が「(しばらく無言)」の後「 0 が何もしないという意味なのは,足し算のときだよ.かけ算のとき,何もしないに当たるのは1なんだ.だから a×1=a なんだ」と答えた気持ちも、よくわかります。証明を述べても無理だろうという予測のもと、嘘を言わずごまかさず…となれば、やはり「単位元」の説明をひとこと、という線に落ち着くだろうなあ、とこの私も思います。