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シューチョのブログ

岡本久『最大最小の物語』

岡本久『最大最小の物語 関数を通して自然の原理を理解する』(サイエンス社、2019年)

 

連続的な最大最小問題は微積分学と密接に結びついている.[……]最大最小問題は自然の原理を理解するために不可欠であるし,過去の多くの数学者が心血を注いで解決しようとしてきたものである.[……]ただ,最大最小問題のおもしろみを味わうためには,大学受験に必要最小限の(あるいは単位をとるために最低限の)知識を要領よく覚えるという態度を放棄せねばならない.ある人にとってみれば,本書のような題材は道草であろう.しかし,道草も時に必要であると割り切って本書を読んでいただきたい.
===(序文より)===

 

掛谷宗一(1886─1947)は日本の数学者で,多項式の根に関する掛谷の定理で有名である.しかし,掛谷の問題を思いついたことでも著名である.[……]「長さ1の線分を平面内のある領域内で動かして,両端が入れ替わるようにせよ.そのような領域で面積最小のものは何か?」
 この領域を凸領域に限ってしまうと,1辺の長さが2/√3 の正三角形が解である.しかし,そのような制限を取り払ってしまえば,正三角形は最小ではない.デルトイドの方が小さい.
[……]
 多くの人々はデルトイドが最小を与えると思っていたらしい.しかし,この予想は正しくなかった.[……]重要なことは,一見正しそうに見えることでも実は正しくないことがあることである.
===(91,92頁)===

 

注:半径Rの大円に半径rの小円を内接させながら滑らないように転がしたときの小円周上の1点の描く軌跡=ハイポサイクロイドのうち、R : r = 3 : 1 であるものをデルトイドといい、正三角形の各辺を内側に弓なりに曲げた形をしています。

 

[……]数学の教師も応用の世界や数学史にもっと慣れ親しむ必要があろう.[……]面倒だと言わずに,教師自ら数学の歴史を紐解けば最大最小の意味付けあるいは動機が見えてくる。
===(後書きより)=== 

 

古代ギリシャガリレイケプラーフェルマーオイラー和算…と数学史を辿りつつ、主として古典的/典型的な問題が本文中に約50題??、各章末にもそれらの類題の演習問題が計50弱(未読??)掲載されています。そのほとんどが高校数学IIIまでの予備知識で理解でき、数学II微分で解決できる問題もいくつかあります。加えて変分法にも入門できます。著者の語り口を講義で聴くような流暢な解説によって、ほぼノンストップで読み進めていけました。
200ページに満たない薄さながら、数学者の本気の呼びかけを実感できる本でした。