音楽の編み物

シューチョのブログ

ひとりぼっちの宇宙人 (29)

第 VI 章 ダン=セブンという多面体 (3)

1 悲劇のエトランゼ

  第26話「超兵器R1号」(2)

===今回は引用が多くなったので、煩雑を避けるため、直後に逐一出典明示はしない。挿話名以外の「」内、および2本の───で囲まれた部分は、すべて(若槻、DVD[99g:26])からの台詞の引用である。===

 マエノは実験場所として、ギエロン星を選ぶ。地球への影響が全くなく、生物がいないからだと言う。

───

セガワ「われわれがついに超兵器を持ったということを、宇宙の侵略者たちに知らせるということも、この実験の目的の一つなんだ」

マエノ「実験が成功すれば、ギエロン星は宇宙から姿を消すでしょう」

───

再びマエノの美しい笑顔、希望に満ちた表情。己の残酷に気づかない二重の残酷。ブラックユーモア第2弾であるが、オチが無くストレートである分だけ、こちらの方がさらに空恐ろしい。

 R1号は予定通り発射され、ギエロン星は爆破される。宇宙観測艇8号から成功の連絡を受信し、喜びにわく作戦室。ダンはその輪には加わらず、無言で出て行き、追って来たアンヌに「宇宙パトロールの時間だよ」と冷たく返しホークに急ぐ。アンヌはダンの言葉を思い出す。──「それは、血を吐きながら続ける、悲しいマラソンですよ」──

そのとき、作戦室へ宇宙観測艇8号からの通信が入り、慌てる声で「緊急情報、緊急情報、ギエロン星から攻撃を受け…」と言いかけて途絶える。ギエロン星から地球に向かって来る飛行物体。キリヤマはホーク1号でパトロール中のダンとフルハシに 調査を命じる。

 ホーク1号の機内で発せられるダンのモノローグ。

───

僕は、ぜったいにR1号の実験を妨害すべきだった。ほんとうに地球を愛していたのなら、地球防衛という目的のために。それができたのは僕だけだったのに…。

───

 フルハシの呼びかけに気づきもせず、暗くふさぎ込むダン。それを訝しがるフルハシがダンに何か語りかける間もなく、ホーク1号は問題の飛行物体に遭遇。それは巨大な生物だった。生物は、ホーク1号のロケット弾を受けても隕石と正面衝突してもびくともせず、一路、地球へと向かっていくのであった。

 ダンよ。君は、闇に消えたあのペガッサ星人のことを、よもや忘れてはいまい。あるいはつい先日、地球防衛の決意をあらたに固めたばかりではなかったのか。ポール星人に翻弄された己の弱さを省み、一歩前進したのではなかったか。それなのに、いや、あるいはそれゆえに?、君はここでもやはり間違えた。やはり、あのとき基地=地球にいなかった・戻れなかったことがトラウマとなり、自分の心と行動を地球人=人間自体に近づけようとする働きが、無意識的にか、よけいに強まってしまったのか。当然のことだが、誰も君を責められない。地球と人類への君の献身を知るわれわれ鑑賞者も、それを知らない君の仲間たちも。だが、そんなことを言ったところで決して君への慰めにはならないだろうこともわかってはいる…。誰にも打ち明けられない、君だけの悲しみ。君のその計り知れない孤独を、いったい誰が癒すのか。癒せるのか。…“現実”は君に容赦なくのしかかる。君はそれを受けて立たねばならぬ存在なのだ。数ヶ月前、幸い言葉が通じたアンノンは、説得に応じた。何よりあのときは彼らの誤解だったのであり、地球人と彼らの相互とも実害は最小限に留まった。だが、今度は違う。棲星怪獣(→注1)の名の通り、ただ星に棲んでいただけの生物のはずであったギエロン星獣には、言葉は通じない。R1号の爆発エネルギーを自らの憎悪のエネルギーに変換して体内に保存した、甲高い鳴き声と血走る眼で訴えるこの「悲劇のエトランゼ」の怒りを、ダンよ、君は鎮めることができるのか。

 

注1:ウルトラ怪獣の全てにはサブネームが設けられる。棲星怪獣とはギエロン星獣のサブネーム。ファンにはこれを覚える愉しみもある。分類のためかというとそうでもない。同じサブネームを持つ怪獣・星人はめったになく、ほとんどは1体に1つ固有のサブネームが与えられるようだ。