音楽の編み物

シューチョのブログ

ひとりぼっちの宇宙人 (28)

第 VI 章 ダン=セブンという多面体 (3)

1 悲劇のエトランゼ

  第26話「超兵器R1号」(1)

 第25話「零下140度の対決」において、自己矛盾を抱えつつも改めて地球防衛の決意を固めるダンの悲壮な意志を見た。ダンは、その直後の本挿話において、何を考え、いかなる行動をとったのだろうか。

 物語は、地球防衛軍の秘密工場の発射台の描写から始まる。R1号について、「惑星攻撃用の超兵器」とナレーションは説明する。

 作戦室。R1号の設計図を広げ、感嘆の声をあげる隊員たち。

───

ダン「新型水爆8000個の爆発力だって?」

フルハシ「しかも、これは実験用だぞ」

アンヌ「すごいわあ。ねえダン」

───(若槻、DVD[99g:26])

既に険しい表情を浮かべるダンと、他の隊員たちのR1号を歓迎する素振りが対照的である。

───

フルハシ「ダン、これで地球の防衛は完璧だな。地球を侵略しようとする惑星なんか、ボタン一つで木っ端微塵だ。われわれはボタンの上に指をかけて、侵略しようとする奴を待っておればいいんだ」

アンヌ「それよりも、地球に超兵器があることを知らせるのよ。

フルハシ「そうか。そうすれば侵略して来なくなる。

アンヌ「そうよ。使わなくても、超兵器があるだけで、平和が守れるんだわ。

───(前掲DVD)

ミーティング?の後、作戦室を出て廊下を歩くフルハシとダン。「地球を守るためなら、何をしてもいいのですか」「返事をして下さい!」と、ダンにただならぬ興奮で詰め寄られ戸惑うフルハシだったが、ダンが実験の中止を訴えると言って参謀室に行こうとしたため、何とかそれを制し、ちょうど通りかかったメディカルセンターの中へダンをどうにか連れ込む。驚き迎えるアンヌ。

───

フルハシ「どうしたんだ、ダン!」

アンヌ「何かあったの」

フルハシ「いや…。忘れるなダン。地球は狙われているんだ。今のわれわれの力では守りきれないような、強大な侵略者がきっと現れる。そのときのために…

ダン「超兵器が必要なんですね」

フルハシ「決まってるじゃないか」

ダン「侵略者は超兵器に対抗して、もっと強烈な破壊兵器を造りますよ」

フルハシ「われわれはそれよりも、強力な兵器をまた造ればいいじゃないか」

ダン「…それは、血を吐きながら続ける、悲しいマラソンですよ…」

───(前掲DVD)

ここまで、開始からわずか約2分。それはほとんどそのままナレーションと台詞の発話時間に等しい。それでいて、それらは冗長な説明的なものに陥らず、説得力ある内容と表現で、見る者を引き込んで行く。まるでラジオドラマを聴くように集中するにふさわしい、凝縮された濃密な脚本である。これ以後も、終結までむだな場面や言葉は全く無い。

 参謀室ではタケナカ、セガワ、マエノ、キリヤマの4人が集まり、R1号の実験への妨害を警戒すること、続いてR2号も製造すること、R2号がR1号の十数倍の爆発力を持つことが話される。R2号の威力に驚くキリヤマにタケナカが「地球の二つ三つは消し飛ぶだろう」と答えた後を受けてマエノが「もう地球は安全です。絶対に」と美しい笑顔でしめくくる。これは一つの易しいブラックユーモアである。しかし、21世紀を生きるわれわれは、この台詞を聞いて、笑うことも白けることもできない。本挿話が、初放映当時の現実であった(米ソ)核兵器開発競争のメタファーであることは言わずもがなであろう。ところが、冷戦時代は終わったからこの話のメッセージ力も古くさく弱くなったのかと言えば、その反対ではないのか。「超兵器が必要なんですね」とフルハシに返すダン=森次の表情、それはそのまま現代の“世界の良心”の表情である。それはすぐれて、「純粋に平和を願い過ちを悲しむ心」の普遍化・抽象化であり、同時にそれを一つの表情として表現する具体化となっている。