音楽の編み物

シューチョのブログ

わかる人、わかる時、わかる可能性 (19)

 前回のつづきです。

 芸術点が設けられた第10回・第11回のVTRの視聴の後、山田氏はロボコンを「フィギュア部門とアスリート部門に分けること」を提唱します。まあ、番組の流れに沿っただけで特に深く考えもせず述べたのでしょうが、そういう発想がロボコンの主旨と正反対のものであることはやはり指摘しておこうと思います。

山田氏の言葉を受けて言うならば「フィギュアとアスリート」とが、分離分類されずに融合・統合された形でたのしめるところがロボコンの魅力なのです。「部門を分ける」という発想は、実は評価や得点や勝敗というものの意味を過大に捉えることから来るといえます。例えば、ロボコントーナメントで勝敗を決めるという形態である理由は、それがエンターテインメントとしておもしろい(より丁寧にいえば、おもしろく演出できる形態の一つであろう)から、というのが第一でしょう。ロボコンの競技には主に、(1)課題のタイムを競うタイプと、(2)一定時間内に物量的・技術的課題をこなすタイプとがありますが、いずれにせよ、その気になれば1体ずつの試演によって能力を測って優劣を付けることは可能です。「芸術点」も個々に審査することができます。しかし、そういう試演と審査の羅列を見ていても、観客はさしておもしろくないでしょうし、ということはひいては競技者も審査員も、自らやっていてもつまらない、ということにもなってきましょう。ここでは、勝敗(を決めていくような試演遊戯形態)というものはそういうものとしてあります。つまり、あった方が「おもしろい」が、そういう意味以上に肥大化しえない、という両義性の中にあります。ロボコンの生みの親である森政弘さんの「勝ったロボットには力があるが、負けたロボットには夢がある」という言葉(→注1)。われわれはこの一文を、単に「判官びいき」的・「教育配慮」的な美辞麗句として軽んじるよりも、ロボコンの主旨と魅力が確かに凝縮されている、と受け取るべきでしょう。

あるいは少し別の角度から、「耐久性」を「競う」ための形態として見るとどうでしょう。上記タイプ(2)の課題を、1回だけは100%こなせるが2回め(をやるとして)途中で壊れたロボットと、3回以上60%こなせるロボットと、どちらが優れているのでしょうか…。能力とは多面的で、客観評価は難しい。あるいは例えば、そもそも「優れている」の概念自体を検討し出すと、話はさらに込み入ります…。が、少なくともトーナメントであれば、勝ち残ったロボットが必然的に耐久性を問われるようにはなっています。トーナメント方式は、まさにロボットの能力を測るという観点からも理にかなっていると言える部分もあるのです。やはり、なかなかよくできている。

また、「芸術点」というのは第10回で採用されるも、その後は定着しなかったようです。勝負というのは「アスリート」的部分のみで決めればよい。芸術性とは主観に左右されます。また、主観に左右されてこその芸術性です。その部分を大切にしたいなら、「芸術点も加味した審査をする」などとせず、それをトーナメントの勝敗(の審査)には持ち込まずにおくべきでしょう。主催者も、一度「芸術点」を設けてみて、そのことがわかったのだろうと思います。

さて、ロボコン大賞とは何も芸術性だけを見るわけではないでしょうが、審査員たちの主観が込められるという点において、客観的結果である「トーナメントの勝敗(→注2)」とは異質であり、上の芸術性の話と類似するといえます。「芸術点を勝敗を決定する要素として取り入れる」という過渡的な迷いはあったにせよ、大賞を設けた当初から「大賞は勝敗とは無関係に選ばれる」としているところはさすがです。主催者たちには、山田氏のにわかコメントとは質的に違った一定の良識があります。大賞は審査員たちの判断に委ねられているのですから、そこを大いに活用すればよい。「勝つことだけしか考えていない」(と判断できる)チームには「きみたちのロボットは、いくら強くても、大賞のタマではないぞ」ということを示してやれるのです。あるいは2006年のように、優勝と大賞受賞が重なる場合もありえる。勝敗(優勝)という客観と、大賞という主観。この両方(もしくは、なるべくなら後者の方)をできるだけ大事にするようなエンターテインメントの実現は、競技能力・アイデア・技術・芸術性その他すべてを、一本の「トーナメント方式の勝負」の中で観覧する(→注3)ことで、かえって可能になっているのです。

注1:森氏は2007年大会の審査員席で「こんな言葉がある」と紹介するような言い方をしていますので、オリジナルの発言は別人によるのかもしれません。

注2:ここではもちろん、芸術点の持ち込まれない、先述のタイプ(1)・(2)などに基づく単純で客観的な競技ルールのみによる勝敗のことを言います。

注3:負けたロボットで、対戦の中で特徴を十分には発揮できなかったロボットには、アイデア・技術のお披露目が許される「アピールタイム」が設けられてもいるようです。