音楽の編み物

シューチョのブログ

わかる人、わかる時、わかる可能性 (15)

 「高専ロボコン2007」のテーマは「風林火山ロボット騎馬戦」。「初のロボット同士の直接対決」ということでしたが、これを聞いた直後は僕は少し気持ちが曇りました。例年のテーマは、多角的で複雑なものが多く、多様なアイデアや技術を披露できる場面が豊富に盛り込まれていました。しかし今回の「お互いに相手の5本の旗を奪い合う」という構図は、アイデアや技術が単調にならざるをえないだろう、と思ったからです。案の定、各校のロボットたちは例年よりは似通ったものが多かったのです。

しかし、かえってその狭いテーマを真正面に追求する形のすばらしいロボットが現れました。それはサレジオ高専(B)の「二戦錬馬」です。武士が馬に乗って戦う──騎馬戦とはこれ以外にありえません。しかし、この通りのロボットを提示しえたのはサレジオ高専(B)だけでした。ロボ武者とロボ馬とは別々のロボットで、これらが合体するのです。どうです、この勇姿(ロボ武者の背は低くもなり、低い時の方がさらに愛らしいのですが)。周知の通り、ロボットの歩行は高い技術を要します。しかも重量制限のためにロボ馬はこの細い脚でロボ武者を乗せて支えねばなりません。それでいてそういう困難さをけっして感じさせない、しゃれたデザインがまたすばらしい。ロボ馬が靴を履いているのも、足下が金属のままだと滑って歩けないためだそうですが、それをシンプルかつユーモラスに解決しているところがいいですね。番組の中では、設計担当の学生さんが、馬の写真を見ながら鉛筆でスケッチしている場面が紹介されていました。

「二戦錬馬」は地区大会で初戦敗退するも、そのアイデアが買われ、審査員推薦によって全国大会出場を果たしました(注1)。しかし全国大会でも、強豪・詫間電波高専に1回戦で当たってしまい、合体時に詫間の素早い動きをかわすことができず、一気に旗を4本奪われ、その後も合体・離脱を経て馬が暴走、最後の旗も取られ、あえなく敗退。ロボ武者の刀さばきによる旗取りはついに見ることができませんでした。残念です。ほんとうに残念でした。しかし、その「残念であった」ことの、何と感動的なことでしょう。「二戦錬馬」の勇壮な殺陣のシーン、それはわれわれ視聴者の想像力に託されたのです。試合や紹介VTRの映像の記憶を頼りにイメージをつなぎ合わせ、ロボ馬が競技フィールドを闊歩しロボ武者がかっこよく立ち回る映像を構成するのは、われわれ自身なのです。それは尽きせぬ魅力に富んだ頭の中の夢であり遊びでありましょう。

 さて、コンクール/コンテスト批判の眼はどこへ行ったか、ロボットなら競っていいのか、無邪気に「感動」を口にしている場合か、と訝しく思われるでしょうか。もちろん、そこを意識しているからこそ本稿は「わかる人、わかる時、わかる可能性(15)」なのでして。一区切りしてから、もう少し続けることにします。

注1:「審査員推薦による全国大会出場」自体は珍しくありません。各地区大会で、おそらく地区大会出場校数の割合になるべく合わせる形で、優勝チーム以外に1~3チームが推薦されます。