音楽の編み物

シューチョのブログ

わかる人、わかる時、わかる可能性 (27)

 高専ロボコン2009地区大会、九州・沖縄と四国以外もすべて視聴。

  中国大会

 優勝した広島商船A「新!!シンデレラの巻」のバク転ローリングジャンプが印象的でした。ロボコンというのは、団体競技といいますか、各校のA・Bともに数人~十数人の仲間で組織的分業的に臨むのが普通のようです(競技フィールドに臨める選手の定員は5人でしたっけ)が、広島Aはたったの2人。それでもあそこまでできるということが意外ながらも頼もしい。こういうチーム/ロボットにぜひ豊田(後述)と当たって逆転勝ちしてほしいなあ、と(笑)。

  関西大会

一見したところ、関西大会のレベルが最も高く、高得点が続出していました。

大阪Aの「オバチャンバラ」は、見かけのノリだけでないなかなかの優れもの。脚と足をつなぐプラスチック製のひもを電気のショートの火で焼き切り、そのままスライドして靴を脱ぐようにステージに上がるという機構はみごとでした。

和歌山Aの「ウメボーイ」は全地区大会中最高得点の60点を獲得したすごいロボットですが、スピーディーでありながら意匠や動きがどことなくユーモラスで、特に自動ロボットのちょこまかとした動きが愛らしい。

舞鶴Aの「鶴恋慕(かくれんぼ)」は僕の最も好む「テーマ具現重視型」。「ダンシングカップル」というテーマにおいては、踊り自体の質はもちろん、その踊りが2体で1組の1つの踊りとして示されることが期待されているといえましょう。古の日本の男女を模した2体がそろってしなやかな両腕を動かして舞った「鶴恋慕」のダンスパフォーマンスは、今回のテーマの最も局所的な象徴となる「ペアダンス」の課題における最も美しい成功例となりました。

  東海・北陸大会

 豊田B「叢雲(ムラクモ)」は、機能美に優れ、手動ロボットは歩行が驚くほど巧く、どこよりも早くプレゼントの課題をクリア、さらに自動ロボットと合体してペアダンス─リフト─ポールダンスを次々とそつなくクリアするという、まさに「減点ゼロ」のロボットです。大会の空気も、豊田はすごい、さすが豊田という感じではあります。が、僕はどうも好きになれません。

この豊田Bと決勝で対戦したのは、決まれば30点のローリングジャンプの技が可能な福井A「ヤチマタ」。双方ともペアダンスの20点までは着実に取れる実力をもちます。「叢雲」はこれまで通り早々と40点を取るも、そこからは加点できず制限時間を無為に過ごします。一方の「ヤチマタ」は、ペアダンスまでで時間をかなり消化してしまうのですが、何と残り1秒でローリングジャンプ! 人型手動ロボットがみごとに宙返り(跳躍10点+回転10点)したものの着地は失敗して横転、40─40の同点。まさに筋書きの無いドラマですねえ。そして、審査員判定は2対1で福井A。そりゃあそうでしょう。まことに痛快な好勝負。豊田Bは審査員推薦による全国進出をはたしました。好き嫌いを置けば、素直に拍手を送るべききわめて順当な評価だと思います。

  関東・甲信越大会

 産業技術(荒川)A「miui(ミューイ)」の手動ロボットは何と竹馬がモチーフ。ロボットの重心が高くなればなるほど歩行はますます困難になることは自明であるのに、歩行というテーマに対して“真っ向から逆らう”という、実に意欲的な挑戦といえます。そのロボットは、『ヤッターマン』のオモッチャマのような本体に竹馬のような脚がスラーっと伸びて、しかもその先には文鎮のような華奢な足が前後方向(=スケート靴の刃と同方向)に設けてあるのみ。足(の裏)は、平たくして接地面積自体を広げるとか、片足ずつをそれぞれ内側が開いたコの字形のようなものにするとか、ともかく接地時にできる限り安定させようとするのが普通でしょう。それを、さすがに本物の竹馬のような点接地とまではいかないまでも、線接地を選ぶとは、やはり逆行しています。いったいこれでどうやってバランスをとるのかと思われますが、予測していたよりはずっとちゃんと歩いたという印象でした。プレゼントさえ取れず、全国大会進出もかなわなかったのは残念でした。が、そのおたおたとした足取りがまことにユーモラスで、竹馬に初めて乗れて嬉しい子どもが何とかそのまま前方の「紙芝居おじさん」のところへ行きたいのに、はやる気持ちだけが先行してなかなか進めない…という、いかにもそんな感じでした。その「紙芝居おじさん」の自動ロボットもおもしろいのですが、テーマとの関連はやや薄い──これについては別記事でまた──。

小山A「おに虫とナスのおどり子」は、クワガタムシ型手動ロボットと女性型自動ロボットのシンクロスピンが美しい。特に、自動ロボットが腰を横に曲げて両腕を広げる姿は何とも優雅です。クワガタロボットも、長く伸びた角(顎)がカッコよく、歩行能力も抜群で、実に意匠と機能との統合感がありました。このクワガタロボットを設計した5年生の彼は、2008年大会の「SUPERザウルス君」を設計した彼だとのこと。そうそう、憶えています、SUPERザウルス君。このロボットが全国大会に出られないなんて…とたいへん残念に思ったものでした。確か、どこだったか優勝によって全国進出したロボットも恐竜型で、かぶってしまったのではなかったかと。恐竜同士だけを比較すれば、意匠も機能も彼のザウルス君の方が好印象だった記憶があります。

  東北大会

 鶴岡A「Crane・Crane(クレーン・クレーン)」の小型手動ロボットの動きが俊敏、自動ロボットも安定した六足歩行で、その名の通り手動ロボットをクレーンで吊り上げリフトを成功させました。東北大会においては技術もデザインも抜きん出ていたといえましょう。

  北海道大会

 函館A「軟体ダンサーズ」の手動ロボットはタコ、自動ロボットはイカ。このコンビ、なかなかすごい。まず、レール上でダイナミックに左右に振られるタコの胴体(頭)の歩行のユーモラスな動き。それが、ペアダンスでは、この地上低く左右に振れるタコとエレベータのように上下するイカの動きとがうまくコントラストを作り、既に見てきたはずの同じタコの動きが、イカの上下運動と合わさることで新たに迫力を増したように見えるのです。さらに、タコがイカを頭に乗せてのリフトに至って、イカの上下運動(の特に上昇運動/上方に位置すること)にも「タコの頭上に行く」という新たな意味が与えられ、イカの動きの新たな段階を示しえています。すなわち、歩行─ダンス─リフトと進む中で、タコもイカもその動き(在り方)自体は何ら変化せずにその意味だけが「単独からペアへ」と変化・拡大していくのです。しかもそのことが、後から説明を受けずとも視覚的にリアルタイムに観客に伝わる。このように自らのゲーム進行の全体までもがストーリー性豊かな流れに沿ってまとめられていく様子こそ、テーマ「ダンシングカップル」の、最も広い意味での体現の一つといえます。──これに対し局所的直接的意味におけるテーマ具現の成功例が上述の舞鶴Aといえます。それぞれに魅力的であり、同等に評価したいと思います。──

ここで「ストーリー性豊か」というのは「お伽話を表してみました」などという間接的表面的なことではなく、われわれにとって目前で初めて目にするロボットたち自身の「唯一性のある具体的な姿と動きの一連の流れ自体の持つ豊かさ」のことを指します。ですから、逆に言うと、単に「ロボットの動きがいい/流れがいい」ということだけでもありません。例えば、ゲームの進行だけなら、豊田Bの方が函館Aよりもよほどスムーズでスピーディーなのですが、「叢雲」には「軟体ダンサーズ」のような「ストーリーの豊かさ」が感じられません。プレゼントの受け渡し一つをとっても、腕を二種類二段階にするアイデアやそれを実現する設計・製作の技術にはほんとうに感心しますが、そこにはやはり「取りやすさと渡しやすさ」といった機能的合理性からの回答以上のものが感じられません。「以上のもの」は付加価値に過ぎないと切り捨てたのでしょうか。