音楽の編み物

シューチョのブログ

わかる人、わかる時、わかる可能性 (17)

 他のロボットについても少し触れておきます。東海北陸地区大会における豊田高専(B)「騎槍展開」は、豊田お得意の蛇腹を地面に這わせるタイプ。率直に言って、豊田のロボットはどうも気に入りません。鉄壁の守備といえば聞こえはいいのでしょうが、相手を妨害することをコンセプトの主軸に掲げることが多いからです。今回も、5本の旗すべてを持つロボット「本体」はスタート地点から動かず、そこから蛇腹でつながる「腕」で戦う、というものです。つまり、見かけ上、ロボット要塞1台、攻撃用可動ロボット2台の計3台という感じになります。「ロボットは2台まで」「ロボットは自分の旗がなくなれば動けない」というルールをかいくぐり、旗を取られる心配をせずに攻めることができる「合体型」ロボット、というわけです。しかも蛇腹が相手の進路を塞ぐ。万一蛇腹を乗り越えられても、旗の取り付け方がこれまた奪われにくい仕掛け(ロボット後方下部に斜めに設置)になっているわけです。今年は誰もが、騎馬戦でロボット同士の旗を巡る丁々発止の攻防を期待しているのに、そういうことはわかっていないのか無視しているのか、自チームが勝つことしか考えていない。

豊田のロボットはこれまでもそういう手合いのものが目立ちました。開始6秒でスプリング付きの蛇腹を伸ばしてスポットを制覇したり、円盤をいくつも転がしてそこから100個以上のアイテムを繰り出したり、競技フィールド中央に並んだ15本のポールを15本の腕を使って一気に取り込もうとしたり、何というか、攻撃的・物量的な、「有無を言わせぬ」アイデアが豊田高専の特徴なのです。

さて、今回の準々決勝で、会場の地元である富山高専(B)「TRA」は、ロボットの自慢の剛性を活かし、この豊田(B)の2本の「腕」に自ロボットの豪腕をぶつけ、「体当たり」ならぬ「腕当たり」によって2本とも転倒させました。してやったり。今回のルールでは、相手ロボット本体(胴体)を故意に攻撃してはいけませんが、腕(=旗を奪うための機構を持つ部分)の腕への攻撃は認められています。豊田の蛇腹の先の2体は「腕」ですから、問題ありません。もともとルールの盲点を突いたのは豊田の方ですから、文句は言えませんね。裏の裏をかいた、みごとな作戦でした。旗の数は5対5のまま、時間切れ。審査員判定は2対1で富山の勝利。そりゃあそうでしょう。僕は、もちろん一般論としては富山(B)のような作戦は好みません。しかしここでは「対豊田」という各論的な気持ちが勝るので、拍手するわけです。

試合後の豊田操縦者のコメントは次のようでした。「信じられません。もう少し優しくしてくれてもいいと思います」って、あのねえ、成り立ちも振る舞いもいちばん優しくないのはどこのどのロボットなのか、わかっているのかい? 敗者コメントにおいては、機械のトラブルや操縦ミスなどに言及し、ロボットが十分なパフォーマンスを発揮できなかったことを悔やむ言葉が出るのが普通です。何年もロボコンを見てきましたが、コメントで対戦相手のことをわるく言ったのを耳にするのは初めてです。会場も一瞬苦い笑いに包まれ、雰囲気が曇りました。勝つことだけにとらわれた人間は、やはり“負の”空気を作るのが得意のようです。と、これはあくまで僕の想像・偏見に留まりますが…。