音楽の編み物

シューチョのブログ

相撲プレイヤー若乃花(2)

クリ拾い(21) 2009年2月

シューチョのアーカイブ (4) ──1998.5.30.「相撲プレイヤー若乃花(2)」──

 


僕が若乃花のファンである理由は、「弟思いのやさしいおにいちゃん」という人柄がポイントなのではなく、あくまで相撲の内容が主です。彼の相撲には味がある。なぜか。それは対戦相手も十分相撲を取るからです。“攻められ上手”なのです。対戦相手の方が、その特徴をよく発揮し、いい感じで攻め込む。特に若乃花が勝つときにその傾向が大きい。若乃花は残して残して応戦し、最後に技を決めるのは若乃花の方なのです。しかもただ粘り強く残すからよい、技をきれいに決めるからよい、というだけでなく、その「残し方」「勝ち方」が、そのときどきによって「こうしかない」と必然的に見えたり、反対に「そうくるか」と意表をつかれて面白かったりする。ワクワクするのです。逆に、負けるときはあっけないことが多く、相手の相撲の良さも強さも却って出てこないことが多い。こんな力士が現在他にいるでしょうか。-力と技のヴォリューム感あふれる“輪湖”激突の時代が過ぎ、スピード&パワーの千代の富士が名実共に台頭し、相撲内容が単純化して「強くて速いのが凄い」というような見方が出来上がってしまった。貴乃花もこの系譜です。速いかどうかはともかく強さが売りです。横綱だからあたりまえ?違いますね。強いだけではダメです。僕は相撲ファンとして、強さを見せつけてほしいのではなく巧くて面白い相撲が見たい。若乃花の相撲はまさに乾いた喉を潤すように“相撲鑑賞の醍醐味”を味わわせてくれます。というか、逆に、若乃花の相撲を見ることで、相撲の面白さということに関する再入門ができたといえます。

NHKの実況アナなんかは「最近、若乃花の相撲に以前足りないと言われていた“力強さ”が出てきた、と言われますね」などと言っていました。横綱気運を盛り上げるための発言でしょうが、若乃花本来の特徴・個性をそういう一般的な言葉で均してしまわれるといい気がしません。確かに、若乃花横綱になって、これから取口が変わっていくかもしれません。個性がほんとうに均されて、ただ強いだけの横綱になってしまうかしら…。ファンとしてはそれでも応援し、見守るしかないわけですが…。

だいたい「史上初の兄弟横綱」とばかり言われ過ぎます。今回横綱になったのは若乃花一人であり、貴乃花は関係ありません。彼らに兄弟愛も親子愛も通常の意味で存在するのだろうし、それがすがすがしい話題になる可能性をもちろん否定しませんが、「若乃花横綱昇進」を報道するとき、もっと多様な視点が他にあるはずです。例えば、兄弟の成長を綴った秘蔵VTRではなく、「若乃花幕内全取組(全部は無理か。なら大関以後の勝ち相撲の主なものだけでも。)を編集」なんていう企画は持ち上がらなかったのかしら。NHKか、『ダイジェスト』のテレビ朝日なら可能だったと思うのですが。