音楽の編み物

シューチョのブログ

ベッツィ&クリス『THE BEST OF BETSY & CHRIS』

f:id:sxucxo:20200815193842j:image


f:id:sxucxo:20200815194024j:image

f:id:sxucxo:20200815194020j:image

「白い色は恋人の色」が出た1969年から6年経った小学4年生の頃、歌い出しである「花びらの白い色は、恋人の色…」の一節をラジオか何かで聞いて(か、ただふと思い出してか)「いいな、でも何だか能天気で物足りないな」と感じた記憶があります。何とも生意気なガキ…(苦笑)。どうしてそう思ったのか…ヨナ抜きだったからでしょうか。

 

2002年頃、昔知った曲を今聴いてみたいと思っていろいろ検索して見つけたCDの一つがこの『THE BEST OF BETSY & CHRIS』です。「白い色は恋人の色」の作詞作曲がフォーククルセイダーズ北山修加藤和彦だったこともそのとき知り、フルコーラスを初めて自覚的に聴くことができました。そのクォリティーの高いこと!子どもの時には到底意識しえませんでした。やはりヨナ抜きを脱した「シ」連発のサビこそが大人の胸を揺する(笑)。ラストの「想い出の色」の「ろ」の持続音、主声が消えた後も、他方の低い声(どちらがベッツィかクリスかは未知(頭掻))がわずかに長く残る。揃っていないからこその味わい、余韻。おそらく「揃えないようにした」のとも違って、ベストテイクを残す過程で今私が書いたのと同じことを作り手が感じ「これで行こう!」となったのではないか…そんな想像も楽しい。

 

さらに驚いたのは、他の15曲。北山─加藤のコンビの「パピルスの船に乗って」「花のように」「すてきだったから」「美しいものたちよ」のどれもが素晴らしい。そして他の作詞家たち作曲家たちの手がけた「夏よお前は」「娘は花をまとっていた」「ふたりだけの島」「僕の中の君」の4曲も、質の上でまったく引けを取らない。さらに外国曲のカバー7曲も、「この二人がこれを歌えばさぞ良いだろう」というものばかりが選ばれていて実際にそうなっている。そのうちのいくつかは第5回で書いたPPMに迫る名演ですし、アコースティックな伴奏による「SOUNDS OF SILENCE」については、本家を凌ぐとさえ私には思えます。

 

全部いい。そうなんですが、実は日本語の歌については初めの頃は「白い色は恋人の色」「すてきだったから」「僕の中の君」の3つが特に気に入っていて、これらとその他、という風に意識していました。それが、何度も繰り返し聴き、また、「これ、いい!…」と言ってその理由を雄弁に語った妻の言葉にも触発され、他の曲の良さにも目覚める、ということを経てきたのでした。

 

孤独を志向する娘(者)の心情を吐露した「パピルスの船に乗って」、良質のメルヘンのような奥行きを持つ「娘は花をまとっていた」、恋愛と美の世界をつないだ「美しいものたちよ」。いずれも、シンプルな韻文として短くまとまった歌詞の中に、意外にも深い文学・含蓄・哲学が詰まっているのではないか。それを、明るく軽妙な長調の旋律で覆い、ベッツィとクリスのあの魅力溢れる訛った日本語の歌声によって届けることで、その真実を自ら隠しているのではないか。…いささか大げさながら、ここ数年でそんな風に考え至っています。