音楽の編み物

シューチョのブログ

クリ拾い(39)

 第七藝術劇場で、安田好弘さんを追ったドキュメンタリー映画『死刑弁護人』をみました。和歌山毒カレー事件については、「詐欺師さんだから、一文にもならないことはやらないでしょう」という素朴な論理と、「彼女の命がかかっていますから」という重い一言が、耳に残りました。また、当然といえばそうですが、彼の仕事は冤罪を防ぐだけではありません。「名古屋女子大生誘拐殺人事件」の非冤罪確定死刑囚との交流と刑執行によるその断絶を訥々と語るところも、この映画のハイライトシーンの一つでしょう。

いわゆる「凶悪事件」の被疑者あるいは非冤罪の罪人に対して、「そんな悪い奴は死刑にしてしまえばいい」というようなフレーズとなって出てくるような種類の感情を持つことは、第三者として報道に接するだけで、いえ、そうならばなおのこと、誰しもありえることだと思います。が、報道のされ方によって容易くそういう感情に至ってしまうことの怖さに、本作をみて改めて気づきます。そしてそれは冤罪であるか否かによらない恐怖だということです。『きみが選んだ死刑のスイッチ』という本のタイトルを思い出しました。著者は森達也さんですが、本作公式サイトに「あなたの世界そのものを根底から揺さぶる」というコメントを寄せています。まさにその通り。しかしその揺さぶりは急速なものではなく、じっと、ずっと来る、「思考への揺さぶり」といえます。