音楽の編み物

シューチョのブログ

言の葉と音の符 楽の譜は文の森 (22)

 合唱コンクール課題曲の番組について、つづきです。

 ──と思っていたら、次に同じ曲の女声版の模範演奏。指揮者が変わりました。別々にやるか?曲は同じちゃうのん、と思いつつも見ると、指揮の野本立人氏は、混声の指導者よりはずっとまともなことを言います。この曲のポイントは「登場する2つのキャラクターを歌い分けること」だと言います。これ自体はまあありふれた指摘ですが、その後が具体的なのがいい。歌について歌詞だ言葉だと言い出すと必ず、曲の音楽としての構造と詞の内容の構造とのずれの問題に行き当たります。この曲でも、1番では、曲が最も盛り上がる所でそこに乗る歌詞の方は弱々しい感情を伝え、2番では、同じ箇所でそういうねじれがなく詞と曲とが一致した感じになります。野本氏はそれを自分がどうしたかを具体的に伝える。異なるキャラクターによる異なる歌詞を同じ旋律にどう乗せて歌うか、1番では「私はここでデクレッシェンドをしてみました」、2番では「こことここの音符にアクセントを付けてみました」などと、具体的に大判楽譜にペン書きして示して説明していました。○ですね。やるならこういうことをやってくれなくちゃ。その表現プラン自体や演奏結果の是非はまた別問題ではありますが。そうした上で「みなさんはみなさんの解釈で」と断って終わる。これは優しく親切丁寧とばかりは言えず、同じようにやるのか、似ているけれども違うことをするのか、まったく別のようにやるのか、無視してゼロから考えるか…、表現者同士の対決のような面があり、全国の真の指導者・指揮者にとっては、さてそれで私(たち)はどうするのかという、ほんとうは厳しく聞き受けるべき提示・問いかけなのでしょう。