音楽の編み物

シューチョのブログ

ひとりぼっちの宇宙人 (31)

第 VI 章 ダン=セブンという多面体 (4)

1 悲劇のエトランゼ

  第26話「超兵器R1号」(4)

 星獣を、セブンはどうやって倒したのか。アイスラッガーを手に持ち、星獣の喉元の動脈?を斬り付けたのである。黄色い血しぶき?がセブンの顔面にかかり、瞼を閉じ絶命する星獣。ギエロン星獣は、作戦室では博士や参謀などから常に「生物」と呼ばれていた。ギエロン星獣は最も生物らしい死に方の一つ、つまりは最も残酷な殺され方の一つによって、最期を迎えたのである。生物の死としての悲しくも秀逸なこの表現を以て、R1号の爆破で変異し、新型ミサイルで粉砕された後も再生した恐るべき生命力を持つ星獣が、それでも絶命したことを、われわれは納得し受容できるのである。物語の悲劇性からすれば一見唐突に見えた、昼間の花畑での格闘やいつもの明るい音楽も、このあまりにリアルで正視に耐え難い殺傷シーンを緩和するために設けられたといってよい。それでもそれはこの物語に必要だったのだ。それこそがこの物語の本質を表すのであった。アイスラッガーというフィクションが、その表現の要となって活きていることにも注目したい。

 マエノ、セガワ、タケナカらは、ギエロン星獣を憎むことができない、R1号の爆発で恐ろしい宇宙怪獣になったがほんとうは平和な生物であったかもしれない、実験にはもっと万全な配慮が必要だった、超兵器の開発競争だけが地球を防衛する道じゃない、…などと話し合い、反省する。そしてタケナカとキリヤマは、物語前半のダンとフルハシの問答を再現する。

・タケナカ「キリヤマ隊長、超兵器R2号が完成したら、地球の平和はぜったいに守れると思うかね」

・キリヤマ「しかし、侵略者は、それより強力な破壊兵器で、地球を攻撃してくるかもしれません」

・タケナカ「うん。われわれはさらに強力な破壊兵器を造る…、地球を守るために…」

そして、「血を吐きながら、続けるマラソン」の台詞がキリヤマに与えられる。ダンがしきりにうわごとを言っているのを聞いた、と。フルハシとの口論におけるダンの台詞、アンヌの回想におけるダンの台詞、そしてこのキリヤマの台詞。このあまりに有名な言葉は、このように本編に3度も差し込まれているのであった。

 最後に,タケナカとマエノが,負傷のため医務室で休んでいるダンを見舞う。

・タケナカ「私は今から委員会に出席するが、R2号の製造を直ちに中止するように、提案してみよう」

・マエノ「ダン隊員、私も何とかして、他の委員たちを説得してみます」

 喜ぶダン。しかし,物語は,明るいフルートの室内楽のBGMに,車輪の中をひたすら走るマウスと,それを見て再び沈んだ表情を見せたダンの顔のアップとが重ねられ,終わる。

 

 タケナカとマエノは「提案してみる」「説得してみる」と言った少数派に過ぎない。その後,委員会はどうなったのか。はたして他の多数の委員たちは,マエノの説得に応じタケナカの提案を受け入れたのだろうか。『ウルトラセブン』というフィクションの世界ではせめてまず,そうなったであろうことを願い信じることとしよう。