音楽の編み物

シューチョのブログ

ひとりぼっちの宇宙人(17) II.2

第 II 章 ダン=セブンという多面体

2 セブンであることを知られるダン

  第2話「緑の恐怖」

 全身緑色の、蔦の絡まる怪物のようなワイアール星人が、人類を自分たちに同化させようとするホラー編。宇宙ステーションV3のイシグロ隊員に化けて地球に侵入したワイアール星人は、「ダンさんが車を届けて来て下さったの。親切ないい方ね」(金城 DVD[99a:2])というイシグロの妻の言葉を聞き、険しい表情を見せる。この一瞬の眉間の皺によって、彼が、ダンに対して負の意識を持っていることが示される。ただ、第3話「湖のひみつ」のピット星人(後述)とは違い、彼=ワイアール星人は、ダンが自分にとって不都合な警戒すべき存在であることを察知しているに過ぎず、ウルトラセブンの存在までを熟知しているかどうかは明らかではない。

───

「おかしいぞ。透視できない。待てよ。この物質はどこかで見たことがある。そうだ。チルソナイト808。確か、ワイアール星から産出される金属だ。地球には存在しないはずのチルソナイト808が、なぜこんなところに」 

「まだある。警察はいったいどうしたんだ。たぶん、普通の金属だと思って気にも留めていないんだ。しかし、このまま放っておくわけにはいかん」

───(前掲DVD)

 他の登場人物には聞こえない、われわれ鑑賞者にだけ届くこれらのダンの声=モノローグ=心の中のつぶやき・独り言は、様々な場面や事物の説明を担う、いわば“2人めのナレーター”の役目を果たす。ダンのモノローグは、本来の客観的なナレーションとはまた違って、登場人物の一人=物語の当事者としての主観が盛り込まれるため、独自の様相を伴って見る者を引き込む力を持つ。それだけなら主人公がナレーションを兼ねるような他の例も同じであろうが、『セブン』におけるダンのモノローグの場合、上記の例もそうであるように、ほとんどは、ダンがセブンとしての能力や知識を以て場面に臨むときにおいて発せられるのである。ダン=セブンは、物語の渦中にいながらも、地球や人類の対面する事物・事件を鑑賞者とともに第三者的・客観的に俯瞰する側面も持ち得ているのである。そのことを表現するのに、モノローグによるナレーションという展開はまことに当を得た手法であるといえよう。ダン=セブンの二重性は、ナレーションの次元にも、すなわち、物語の中の当事者という立場の枠に収まらない次元にも及んでいるのである。この“同時進行性の語り部”という性格を持つダン=セブンのモノローグが、多くの挿話を通じて生きてくるのである。

 ワイアール星人に襲われた被害者がメディカルセンターのベッドで植物怪人化したときの、アンヌの活躍ぶりにも注目したい。怪人は本来人間なのだから殺傷はできない。しかし完全に緑の怪物と化しているため、あわててウルトラガンを撃とうとするソガ。アンヌは「ソガ隊員、撃っちゃだめ!」(前掲DVD)と制し、高性能麻酔銃パラライザーの置き場所の一番近くにいたダンにそれを渡すように指示、彼からそれを受け取り、さっと構えて目前の怪人に麻酔光線を浴びせる。そして、なぜ撃った?と驚くソガ、アマギ、ダンに向かって「大丈夫。神経を麻痺させて、動きを止めたの」と説明するのである(→注1)。

 不気味な植物怪人の姿に最初は悲鳴をあげるも、直後には落ち着き、あわてる男性隊員たちを実に的確な指示と行動で仕切るアンヌ。また、“名プランナー”(→注2)のアマギさえ知らないパラライザーというアイテムについて、彼女だけが正確な知識を持っているのである。そのパラライザーを構え狙い撃ちする一瞬のカットにおける、アンヌの凛とした表情に、ドクターとしての、ウルトラ警備隊員としての専門性がみごとに表れている。少なくともダン、ソガ、アマギの3人は、以後、同僚としてアンヌを密かに尊敬していたことだろう。

注1:ダンはアンヌに言われてパラライザーを取り出し、渡しているのだから、パラライザーについて知っていたはずだが、ソガ、アマギと一緒に「なぜ撃った?」と驚いているのは不自然である。ダンの知識は、名前と実物とが結びついていただけの不完全なものだった、という解釈も成り立つが、いずれにせよ不自然ではある。しかし細かな矛盾を残しつつも、あるいはそれゆえになおのこと、「女性隊員アンヌの、男性隊員を従えるほどの専門的実力の明示」こそがここの脚本の一つの主旨であることは確かであろう。

注2:第1話「姿なき挑戦者」のアマギ隊員紹介シーンにおけるナレーションの言葉。