音楽の編み物

シューチョのブログ

ひとりぼっちの宇宙人(16) II.3

第 II 章 ダン=セブンという多面体

──第 II 章の各節・各項の連載順は、必ずしも目次の順ではなく、書き上がったものからお送りしていく。また、目次(内容)の変更の可能性もある。(再録)──

3 ダン=セブンと対話する宇宙人

  第14・15話「ウルトラ警備隊西へ」

 国際防衛会議が神戸で秘密裏に開催される運びとなっていたが、そこに集まる科学者の要人が次々と何者かに襲われた。地球からの観測ロケットを侵略と誤解したペダン星人の仕業である。ペダン星人の一人は科学者ドロシー・アンダーソンを誘拐し、彼女に化けて入れ替わり、研究所に入り込んで、そこでの会話を発信機で仲間に送り秘密を筒抜けにさせる。やがて正体を見破られた偽ドロシーはいったん逃げて隠れるが再びダンの前に現れる。

───

ウルトラ警備隊に宇宙人がいるとは知らなかったわ。ウルトラセブン、どう、私たちの味方にならない?地球はいずれ、私たちのものだわ。その方が身のためよ」

「断る。僕は、地球の平和を守るために働くんだ」

「地球が平和なら、ほかの星はどうなってもいいというの」

「地球人は、ペダン星を侵略するつもりはないんだ。あのロケットは、単なる観測ロケットだったんだ」

「観測?はっ、いかにも立派な名目だわ。でも何のための観測なの。それは、いずれ自分たちが利用するためにやっていること。その手にはのらないわ」

「そうじゃない。われわれ地球防衛軍のほんとうの目的は、宇宙全体の平和なのだ」

「そう考えているのは、ウルトラセブン、あなただけよ」

「なに?」

「人間は、ずるくて、欲張りで、とんだ食わせ物だわ。その証拠に、防衛センターでは、ペダン星人を攻撃するために、密かに武器を作っている」

「それは、おまえたちが地球の平和を乱すからだ」

「それはこっちの言うことよ」

「うむ?」

「他人のうちを覗いたり、石を投げたりすることは、ルールに反することだわ」

「なるほど。地球人も確かにわるかった。こうしよう。僕は今度の事件を平和に解決したい。ウルトラ警備隊は、ペダン星人とたたかうための武器の研究を中止する。そのかわり、ペダン星人も地球から退却してほしい」

「宇宙人同士の約束ね」

「そうだ」

「わかったわ。あなたを信じることにする。私たちの誠意の印として、本物の私、つまり、ドロシー・アンダーソンを返すわ」

───(金城 DVD[99d:15])

研究所に戻ったダンは皆にこの「会談」のことを伝え、研究中止を訴える。

「ほんとうです。宇宙人同士、いや…、地球人とペダン星人の約束として、そのことを協議してきたんです」(前掲DVD)

誰も答えない。

「もしほんとうなら、最高にいいわ。私たちのほしいのは、平和なんですもの」(前掲DVD)

アンヌが雰囲気を見かねてフォローするが、アマギは冷めた言葉で返す。

「その言葉が真実ならな。」(前掲DVD)

ダンは苛立ち、声を荒げる。

「みんな、何を疑っているんだ。まず、相手を信じることです。そうでなければ、人間は永遠に平和をつかむことなんかできっこないんだ!」(前掲DVD)

 21世紀、2006年の現在、ダンと偽ドロシーの一言一言が、痛切な響きをもって耳に届く。本稿はもうすぐ「構想10年」を迎えるが、当時の筆者は、現在のこの“正義の戦争の世紀”の到来を全く予測すべくもなかった。まさか、いくら何でもこれほどひどい世界が現実に訪れようとは正直思いもよらなかった。例えば憲法(第9条)「改正」の論議が「まじめに」わき起るなどとは想像だにできなかったのである。少なくともそれほどには、この国の政治や世界の状況や自分の生活といったものを、十分楽観視していたのである。

 筆者の祖母の故・小西綾(→注1)は、2006年の記念カレンダーにおいて、生前のポートレートとともに「こんなにいい時代はありません。お手本のない時代です。自分の頭で考えて生きて下さい」と呼びかける。綾の最晩年は、寝たままの生活が続き、記憶力・認知力もさすがに衰えていたから、特に2001年9月以降の世界についてどの程度明晰に認識していたのかはわからない。だが、それにしても、現代を「こんなに悪い時代はない」と考える筆者にとって、これほど厳しい言葉があろうか。こんな悪い時代を前に、「あんた次第なんや」と託されることの、何という重み。

 すべて戦争は自衛のための戦争だと言われる。「理想と現実とは違う」というしたり顔のシニシズムこそがまさに、現実から逃避する態度、すなわち、「相手を信じていないから平和ではない」という現実から、逃避する態度にほかならない。また、40年前の虚構作品の中からの台詞を拾うことによって、われわれはさらに、“現実からの逃避の思想=無思想が大手をふってまかり通る悲しい現実”についても、否応なく開眼させられる。

 さて、ペダン星人は実はやはり侵略者であり、返されたドロシーは記憶喪失にさせられていたし、宇宙ステーションV2からはペダン星人の侵略宇宙船団が近づいているという連絡も入った。「裏切ったな、ペダン星人め」と心の中で叫び怒りを露にするダン。その顔の表情の個性に注目したい。俳優・森次晃嗣は、十分に男前ではあるが洗練された感じは無く、むしろどこか土臭さの残る生真面目なその顔立ちが、モロボシダンというキャラクターにうってつけである。森次が演じるからそうなったという「卵とニワトリ」的な指摘ももちろんできよう。それにしても、正体を明かせない存在としての、内に秘める静かで孤独な“情熱の温度”とでもいうべきものが、一瞬の間に滲み出て伝わるこの表情、まさにダンを演じるのは森次浩嗣でなければならないと思わせる。本稿のテーマにかけて言えば、「森次のダン性─ダンの森次性」の典型的具現である。そしてもちろん、この一例に留まらず、このようなダン=森次の表情や台詞回しが各挿話に散りばめられ満ちあふれていると言ってよく、それこそが『ウルトラセブン』の作品世界の尽きせぬ魅力の一つとなっている。森次晃嗣のモロボシダンは、渥美清の寅さんにも匹敵するほどの“世紀の適役”と言えよう。

注1:こにしあや 1904~2003。──「書きかけ項目」のため、後日更新。