音楽の編み物

シューチョのブログ

言の葉と音の符、楽の譜は文の森 (43)

フジテレビTWO夜のヒットスタジオ」、今年また再放送を一から、といっても74年?放送分くらいからですが、ずっとやっていますね。1970年代中頃とといえば、当時小学生だった僕がちょうど歌謡曲というものに積極的に関心を示し始めた頃に当たります。しかし、日本テレビ系の「紅白歌のベストテン」(午後8時放送)などは観ていた僕も、夜遅く(午後10時)の放送のこの番組も観るようになるのは確かもう少し後になってからであり、懐かしくも新鮮、というたのしい思いで観ています。

布施明は、「シクラメンのかほり」よりも、その前後の「積み木の部屋」と「傾いた道しるべ」が好きで、後者はドーナツ盤を買った記憶もあります。これらは当時から好きだった曲ですが、五木ひろし「愛の始発」、石川さゆり「十九の純情」、アグネスチャン「冬の日の帰り道」などは、観るまでは忘れていたが、「おぉ、そういえば、あったなあ」という類いの曲で、こういう“アーカイブ系再放送”の醍醐味を味わえました。

 「愛の始発」

歌いだしにもサビにも出る「川は流れる 橋の下」という一節が印象的で、小学生でもすぐ覚えられたのでしょう、友だち同士でこのフレーズだけよく歌ったのを思い出しました。もう1カ所、「ボストンバッグに詰め込んで」の部分もおもしろがってよく歌いましたね。

 「冬の日の帰り道」

アグネスチャンといえば「ひなげしの花」「草原の輝き」「ポケットいっぱいの秘密」などなら、うっすら記憶が継続していますし、やはりそういう曲だから例えば「青春歌年鑑」などにも収録されているのでしょう。それにひきかえ「冬の日の帰り道」はそういうオムニバスには入らず、彼女自身のベストCDでないとお目にかからないし、ベスト盤の種類によっては未収録のものさえあるようです。しかし、この曲はすばらしい。彼女のベスト1といってよい佳曲でしょう。アグネスチャンは「夜ヒット」でこの曲を計4回歌っているようですが、これがまた微妙にテンポが異なっていておもしろいのです。初回のテンポが最も速く、つまりCD(レコード)の通りで普通ですが、その代わり、観客の手拍子のノリが無い(少ない)ことも関係があるのか、歌い終わりの「ひとりぼっちの…」の一節でrit.がしっかりかかるのがいい。この箇所でrit.というのは、我々なら半ば常識的といっていいくらいの普遍的なものですが、CDでは聴けません(この例に限らず、ポピュラー音楽のレコーディングではテンポの緩急というのはめったにないようですね)。2回め以降は開始から遅めのテンポとなり、それは好ましいのですが、手拍子も入るし、全体が遅い上にさらに遅くというのは控えたのか、rit.は(ほとんど)かからずでした。

「冬の日の帰り道」のB面が「ハローグッ(ド)バイ」だったことも知りました。「ハローグッバイ」といえば柏原芳恵と思っていましたが、カバーだったんですねえ。この2人の“競演”もおもしろい。柏原芳恵は、「紅茶のおいしい喫茶店」の「喫茶店」の歌い方というかリズムというか、それがまるでしゃべり言葉の「喫茶店」のようにサラリと聞こえ、なかなか巧い。しかし「グッバイ、バイ、バイ」の「バイ」の歌い方はアグネスチャンがよい。柏原芳恵は外来語が少々ダサく、アグネスチャンは(純)日本語部分がたどたどしいという、これはもちろん二人の言語環境の違いによるわけでしょう。「それぞれによい」というのは当然ながら、歌としてのトータルな巧さの点では柏原芳恵に軍配を上げざるを得ない。しかし、それではどちらがより魅力的かというと、あえて選ぶのであれば、僕はやはりアグネスチャンと答えるでしょう。彼女の声とキャラクターは、やはり唯一無二の貴重なものでしょう。「ひなげしの花」でのデビュー当時、僕にはその良さが理解できず、幼稚な声と思い、何やねんこいつ…と訝しがった(何という小生意気な小学生(笑))ものでしたが、普段はアイドル歌手なんて見向きもしない父が、彼女のことは「いや、なかなか個性的でいいんじゃないか」と言って、否定的な感想を言う僕をたしなめたのを今でもハッキリ覚えています。

 その他

(これはCDでも同じことではありますが)キャンディーズ「ハートのエースが出てこない」のテンポには、こんなに遅くやっていたのか、と改めて驚きます。

77、8年辺りからは「夜ヒット」を僕自身も観るようになっていたはずなので、映像自体を記憶している回があるかもしれず、今後の放送はますます見逃せない?(笑)。