音楽の編み物

シューチョのブログ

ベートーヴェン最初の交響曲は、歌って遊ぶ大きな小品である。

音楽テーゼ集
 
(7) ベートーヴェン最初の交響曲は、歌って遊ぶ大きな小品である。
 
 
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  ベートーヴェン交響曲第1番ハ長調作品21
 
 斎藤秀雄はその著書『指揮法教程』において、この曲の第2楽章を課題曲としている。しばらくこの曲と向き合い、なるほど、さすがは棒の振り方研究の第一人者の着眼だ、と思った。シンプルな音楽のはずが、楽器の入りや伴奏の受け渡しなど、意外に工夫が凝らされていて、少しでも油断すると、ベートーヴェンが次々と仕込んだ“歌と遊び”の世界を振り逃してしまうことになるのだ。しかし、ということは、いわゆる「メソード」に沿って1拍ずつ1小節ずつ課題をこなす、という乾いた態度で接すれば、ますますこの音楽の本質から外れていくだろう、という矛盾も否めない。もちろん他の楽章とて同様だ。立派だが軽妙な第1楽章。同音同和声が連なる単純なトリオ主題が独特の郷愁を醸し出す第3楽章。溜まった涙を振り払うように駆け上がる音階が“泣かせる明るさ”を持つ終楽章。演奏者としては、冷めることなくそのすべての音符・休符に寄り添い同行したくなるような、まことに豊潤な魅力に溢れる「大きな小品」であるといえよう。
 
(2004年)