音楽の編み物

シューチョのブログ

音楽とは抽象である。

音楽テーゼ集
 
(1) 音楽とは抽象である。

  

 例えば「エロイカ」の第2楽章について、「行進曲なのだから歩けないような遅いテンポは間違い」であるとして、フルトヴェングラーなど旧時代の巨匠たちの演奏を批判する論をしばしば耳にする。しかし音楽を演奏する際にそういう具体性を持ち込むと、間違いなく作品(演奏表現)の内容は縮減してしまう。巨匠たちは行進曲と記されていることを知らなかったはずはなく、それでも引きずるように演奏した。それはなぜかと考えねばならない。造型の発露となるキーワードを設けるなというのではないが、設けるとすればこの場合はどう考えても「行進」ではなく「葬送」の方だろうし、それでもやはり演奏の本質は、「葬送」の描写などという具体性に向かうのではなく、「葬送行進」という具体的行為から「葬送」さらには「葬」へと至る、一つの抽象を与えることにある。哲学者ならば思考を紡ぐ過程を経て言語によって与えるだろう「具体物/具体的行為の抽象化」を、作曲家と演奏者は音楽によって与えるのである。